なぜ「ちくわぶ」は、東京近郊のローカルフードになったのか?
関東おでんの大定番といえば「ちくわぶ」だ。
小麦粉をこねてゆでた食品で、もちもちした食感が特徴的。中心には竹輪のように穴が空いている。
ローカルフードゆえに、関東以西にお住いの方にはなじみが薄い食べ物かもしれない。
また、関東に住んでいても「おでん以外では食べない」という方がほとんどではないだろうか。
そんな、ちくわぶの低い知名度と扱いに“憤慨”しているのが『ちくわぶの世界』(渡邉博海写真、ころから株式会社刊)の著者で、ちくわぶ料理研究家の丸山晶代さんだ。
これまでに「ちくわぶ縛りのレシピ」を400以上考案し、TBS「マツコの知らない世界」でもちくわぶ愛を披露している丸山さんによるちくわぶ研究の集大成が本書である。
おでんの優しい出汁をたっぷり吸ったもっちり食感のちくわぶは、冬のご馳走と言っても過言ではない。しかし、なぜこの味が日本全国に広がっていないのだろうか。
■なぜ「ちくわぶ」は関東を脱しなかったのか?
本書によると、現在流通しているちくわぶは半真空、または真空パックされたものだが、冷蔵技術や輸送手段が進歩していない頃は、豆腐屋や八百屋で水を張った容器の中に入れて売られていたそうだ。これを業界用語では「ハダカ」と呼ぶという。
真空パックされたものは消毒されているため日持ちするが、ちくわぶは空気に触れてしまうと劣化が著しく、たちまちだめになってしまう。当時の技術では長距離の輸送が難しく、その地域で作られ、その地域で消費される地産地消食材にならざるを得なかったのだ。
さらに、地域には地域ごとの「粉もの文化」が根付いており、他の地域のものを受け入れる必要がなかったと丸山さんは述べる。たしかにお好み焼きやタコ焼き、うどんなど、小麦を使った名物は各地にあり、そこにちくわぶが入っていくのは難しかったのかもしれない。
とはいえ、ちくわぶは太平洋戦争後、食料難に苦しむ関東人をその腹持ちのよさで救った過去もあり、長く関東で愛されてきた事は紛れもない事実である。
本書にはちくわぶの唐揚げやちくわぶカヌレ、アヒージョなどおでん以外でもちくわぶが主役として輝けるメニューが紹介されている。これを機にちくわぶの魅力が再発見されて、関東では今まで以上に食べられ、関東以外の地域でも愛される食材になることを期待したい。
(新刊JP編集部)