だれかに話したくなる本の話

『あひる』今村夏子著【「本が好き!」レビュー】

提供: 本が好き!

どこにでもある外からは見えない家族に横たわる問題。家族にとっては異常ではないこと、違和感を感じながらもどうにもならないこと、そんな名状しがたい不穏な光景を直線的に描かないことで、より濃く、より不気味な異物として形を与える。その凄みに再読でありながらも圧倒され、楽しい話ではないのに心は跳ねるように物語へのめり込んでいく。

現実から安易に目を逸らし、代替えを用意することで平穏を保とうとする闇を纏った不穏な景色は、読み手の心を侵食し、背中がすうーっと冷えていく感覚を覚える。

「あひる」は文芸ムック「たべるのがおそい」で読み一気に惹き込まれたが、この単行本に収録された「おばあちゃんの家」は更に強い求心力を感じた。後妻で家族となったおあばちゃんは、同じ敷地内にある「インキョ」と呼ばれる離れに住まいを置いている。小学生であるみのりちゃんだけは常にインキョへと通い、おあばちゃんとの繋がりはあるが成長するに従い通う頻度も減り、次第に変化していくおばあちゃんの姿にみのりの心はざわつきを覚える。

おばあちゃんの自己の崩壊と共に消えるみのりの心のざわつき。それまで同じ敷地でありながらも血の繋がらない家族に遠慮し、閉ざされたようなおばあちゃんの世界は、脳内の枠が取り払われたことによって自由に開かれていく。言葉に出さずとも子供の肌で感じる孤独の冷たさは重く、苦しい。自己の崩壊は哀しくとも、それによって解き放たれる様々な思いと関係性に一条の光を感じた。

描かないことで浮き彫りになっていく問題の本質に、幾重にも心はざわめく。多弁ではない今村文学の奥深さに改めて感嘆した。

(レビュー:吉田あや

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あひる

あひる

心がざわつく。

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