だれかに話したくなる本の話

『中央駅』キム・ヘジン著【「本が好き!」レビュー】

提供: 本が好き!

都市の中心にある中央駅は、改築工事の真っただ中にありました。古い駅舎を壊し、新しい駅舎を建て、古い駅舎は博物館に生まれ変わります。夜になるとライトアップされ放置される工事現場。だからこそそこは、路上生活者たちのねぐらとなっていました。

 路上生活者となった若い男と、同じく路上で生活する、アル中で病気持ちの年配の女。その取り合わせを聞くだけで何とも切ない思いになるのは、間違いなく彼らが社会の一番底辺にいる人たちだからです。

 私も仕事柄、過去に路上生活をしたことのある人と、何人か関わったことがあります。彼らに共通して感じたのは、彼らは過去を未来へとつなげて生きる術を知らない、ということです。生まれつきそんな術を持ち合わせていないのか、あるいは何かをきっかけにそうした生き方を放棄したのかはわかりません。いずれにしろ、過去に得たものを蓄えて未来の糧にするということができない、彼らには「今」しか存在しない、ということでした。だから未来のために努力をすることも、助けを求めることも、しないというよりはできなかったのだろう、と想像します。

 「男」(俺)も「女」も同じです。まだ若く健康な男がなぜ路上生活者となったのか、それは一切描かれていません。女についても同様です。彼らはただ駅前をうろうろし、そこで眠り、浴びるほど酒を飲み、出会った、それだけです。

 「今」しかないから、酒が飲みたければ飲む。腹が立てば殴る。未来の心配がないから、人を殴ることにも、人の物を盗むことにも、あるだけの金をすべて酒につぎ込むことにも、何のためらいもありません。そして今、お互いがほしいから抱き合う。路上で、騒音の中で、他の路上生活者に注視されながらも。男は何度も「これは本当に愛なのか」と自問します。読者である私は心の中で答えます。まさにそれこそが愛なのだ、と。

 支援センターの職員たちは、いわゆる「普通」の感覚で彼らを支援しようとします。仕事と住む家を与えること。病人を病院へ入れること。それが職員たちの仕事であり、普通の人たちが普通に考える幸せです。しかし彼らはそのような普通の感覚を持ち合わせてはいないのです。過去を清算し、未来のために今を犠牲にする生活の術を。だから自立を約束して受け取った支援金を、平気で酒に変えてしまいます。

 「男」と「女」の関係もそうです。本気で2人で生活をしたいのなら、過去を清算しなければならないし、女は病気を治療しなければなりません。しかし「今」しかない2人には、未来のために今2人が引き裂かれることが耐えられないのです。病気をほっておけばどうなるのか、考えれば想像はできるはずなのに。離れれば、互いを求めて捜しに行ってしまう。一緒になれば、あまりの苦しさにすぐ言い争いになる。悲しい、悲しい関係。

 未来のない彼らの人生はあまりに切なく、読み終えたときは心が重苦しくなりました。当たり前の、普通の支援を受け入れることを拒否する彼らに、社会はいったい何ができるというのでしょう。そして「彼ら」のような人々が生み出すこの底辺の社会は、私たちが生きる都市にも、間違いなく存在するのです。その事実をどう受け止めればいいのでしょう。

 路上生活者たちの生きざまを、ただ淡々と綴りながら、これだけの重いテーマを読者に投げかける、作品の力に感服しました。

(レビュー:千世

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中央駅

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韓国文壇界、新進気鋭の若手作家による長編小説!

生田美保翻訳

この記事のライター

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