【「本が好き!」レビュー】『ボダ子』赤松利市著
提供: 本が好き!大西浩平は猛烈に仕事をすることが家族のためだと独りよがりに考えるいわば昭和のサラリーマン。家族の気持ちも考えないため家庭はすぐに崩壊する。3度目の結婚で娘恵子を授かった。しかしやはり家族はほったらかしになり、天真爛漫であった恵子は精神を病むことになる。
境界性パーソナリティー障害の恵子と人格の破綻した妻を抱えゴルフ場関連の仕事に奔走したがジリ貧。起死回生のゴルフ場の省エネモデルの売り込みも東北大震災で水泡に帰した。
そして復興需要の土木工事を求め被災地へ向かう。汚い金のおこぼれをもらいそれなりの収入を得ていたが、震災タワー建設での一攫千金の夢が潰え、そして収入も先細り、やがて経済的に追い詰められていく。被災地へは恵子も連れてきていたが、そこでボランティア活動を始めて娘には笑顔が戻った。ボランティア仲間からはボダ子とあだ名をつけられ可愛がられ、被災地のお年寄りにもその活動は大好評であった。しかしそれは表面上のことで境界性パーソナリティー障害の真の恐ろしさが忍び寄っていた。
この作者の福島原発を題材とした「藻屑蟹」が良かったのでなんとなく手に取った一冊。なんの予備知識もなく読み始めたことが驚愕につながりました。題名の「ボダ子」のボダとは境界性パーソナリティー障害(Borderline personality disorder)のBorderlineを縮めたものです。読み始めてこの病気に関する社会派小説なのかなと勝手に思い込みながら読み始めると、仕事には猛烈に取り組む一方、妙な性癖を持ち結婚と家庭崩壊を繰り返すろくでもない主人公とその結果としての娘の発症。そして金を稼ぐための震災への参加というふうにだんだんと話が妙な方向へ。
「うん?境界性パーソナリティー障害と震災復興を絡めた話なのかな、あまり関係なさそうだけれど」と読み進めていくも、ろくでもない主人公に輪をかけてろくでもない人々。馳星周のノワール小説さながら追い詰められていく主人公、そして悲惨なボダ子の行く末。
途中珍しく何度も読むのをやめようかと思いました。私は本が難しくても面白くなくてもあまり途中でやめようとは思わないのですが、ある意味一貫した救いのなさに何か精神を蝕まれていくような危険を感じたからです。
普通社会派小説と言えば作者の社会的問題意識や主義主張が盛り込まれることが多いと思いますが、そのようなものもあまり感じられません。一体この物語は何を語りたかったのだろうと終章を読んだ時の衝撃!「そうか、これは社会派小説ではなく〇〇小説だったのだ!」と納得したのも束の間、更に暗澹たる気持ちになってしまいました。
それにしても子供が境界性パーソナリティー障害となった親の心中を察するといたたまれない気持ちになります。外見上治ったように見えても本当かどうか分からない。本人のために良かれと思っても反発される。明らかに本人のためにならない行動でも監禁するわけにもいかず。
この作品は圧倒的な熱量を持った作品であることは間違いないですが、特に女性はやめておいたほうが良いと思います。
(レビュー:darkly)
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