【「本が好き!」レビュー】『雪が白いとき、かつそのときに限り』陸秋槎著
提供: 本が好き!(え?これポケミス!?まるでメディアワークスあたりの表紙みたいだけれど?)
と、驚きながら手にした本。
試しにページをめくってみると、雪の降りしきる中、行き場を失った少女が……。
どうやら学園もの、しかも学生寮が舞台らしい。
そうと知ったら読まずにはいられないのは、昔寮生の性(さが)というもの。
たとえそれが殺人をめぐる話であろうとも……。
舞台は中国南部の高校。
冬の朝の学生寮で、少女が死体で発見された。
亡くなった少女は、ルームメイト達から執拗なイジメを受けていて、
前夜も寮の外に閉め出されていたのだった。
5年後、生徒会長の馮露葵(ふう・ろき)は、
寮委員の顧千千(こ・せんせん)から相談を受ける。
寮内で起きたいじめ騒動をきっかけに
過去の事件の噂が寮内に広がっているというのだ。
噂そのものはいじめ加害者の退寮でひとまずおさまるはずではあったが
少女たちはこの謎の多い過去の事件を
もう一度自分たちの手で調べてみることに。
5年前、
白い雪に覆われた地面には犯人のものと思われる足跡はなく、
いくつかの謎を残しつつも最終的に警察は自殺として処理をしていたのだった。
真相を探るべく、まずは学校の図書室に向かった二人は
大のミステリ好きらしい年若い司書の姚漱寒(よう・そうかん)の
助力を得て、本格的な調査に乗り出すことに。
とりわけ馮露葵は、当時の関係者を訪ね歩いてあれこれ聞き出すなど
過去の事件に深く関わるようになっていくのだった。
どことなく米澤穂信の作品を思い起こさせる読み心地は、
翻訳小説は苦手という読者にもすんなり受け入れてもらえそうだ。
結末に賛否はあろうが、後味はそう悪くはない。
物語の進行と共に、
密室のトリックくずしや犯人捜しの進め方など、
探偵のノウハウや
推理を進めていく上で陥りやすい過ちなどがあれこれと解説されていくのが
読みどころの一つではあるが、
ミステリだけに期待すると肩すかしをくらったと感じる読者もいるかもしれない。
なんといってもこれは青春小説。
“自分は自分”と割り切れず、
周囲と自分を比べずにはいられない思春期の少女たち。
平凡な人間であることの厭わしさと
“普通の人間”であり続けることの難しさ。
丁寧に描かれた胸の内に
甘酸っぱさと胸の痛みを伴う郷愁を感じずにはいられない読者にこそ
愛される物語だといえそうだ。
(レビュー:かもめ通信)
・書評提供:書評でつながる読書コミュニティ「本が好き!」