映画『引っ越し大名!』原作小説は歴史に疎くても楽しめるエンタメ小説
江戸時代、度重なる国替えにあい、疲弊する藩があった。
遠方への引っ越しが重なり、財政事情は厳しい。そんな中、さらなる国替えを命じられる。
この国難を乗り越えられるかどうかは、引っ越し奉行の手腕にかかっている。しかし、運悪く前任者は激務がたたって亡くなり、後任に任命された書庫番の片桐春之介には国替えの経験がなく――。
現在公開中の映画『引っ越し大名!』。
主演は俳優・ミュージシャンと幅広く活躍する星野源さん。共演に高橋一生さん、高畑充希さんら豪華キャストが集結し、監督は『のぼうの城』の犬童一心さんが手掛けている。
そんな本作には原作がある。『超高速!参勤交代』シリーズの土橋章宏さんによる時代小説『引っ越し大名三千里』(角川春樹事務所刊)だ。
そのあらすじを簡単に説明しよう。
星野源さん演じる主人公・片桐春之介は、幼い頃から武術もそろばんもまったく駄目。藩始まって以来の鈍才と呼ばれ、親からも目を背けられていた。また、藩の上層部も春之介の扱いに困り、仕方なくいてもいなくてもいい蔵書整理の勤めを命じていた。
人付き合いも下手な春之介は、これ幸いと城の書庫に引きこもってしまい、今では名字の片桐をもじられ「かたつむり」と皆に呼ばれていた。しかし、春之介は書庫の暮らしが心から気に入っていた。なぜなら好きなだけ本が読めるからだ。そして、出世にも興味がなかった。
ある日、そんな暮らしを送っていた春之介に、誰もやりたがらない引っ越し奉行の役目を押し付けられる。「引っ越し奉行」とは、藩全体で別の国に引っ越しをするときの責任者。過酷な国替えは、仕切りを失敗して腹を切らされる者も少なくない。
猶予はふた月。この間に3千人以上いる藩士の引越しを全て仕切らなければいけない。姫路から遠い豊後(大分県日田市)という距離だけではなく、15万石から7万石に厳封されてしまったことも重くのしかかる。
それまで「かたつむり」と呼ばれていた春之介だが、書庫にこもり読み漁ったことで身に付いた叡智が彼を助けていく。大きなプロジェクトを紆余曲折ありながら進めていく本作は、江戸時代を舞台にした時代小説ではあるが、現代に生きるサラリーマンも共感できるところがたくさんあるだろう。
歴史上の出来事を扱った小説というと、そもそもの知識がないと読みづらいイメージがあるかもしれない。しかし、土橋氏の小説は歴史に疎くてもエンタメ小説として楽しめる。
映画とともに、原作である本書も楽しんでみてはどうだろう。
(新刊JP編集部)