星稜野球部のメンタルコーチが教える「勝負強さ」の作り方
夏の甲子園決勝で惜しくも準優勝に終わった星稜高校(石川)。
決勝戦では履正社高校(大阪)に敗れたが、見る者に強烈な印象を残して甲子園を去っていった。
エース奥川恭伸投手の快投ばかりが注目されたが、決して“エースにおんぶにだっこ”のチームではなかった。3回戦の智辯和歌山(和歌山)戦のタイブレークに決着をつけた福本陽生選手のサヨナラホームランや、この試合で165球を投げて完投した奥川投手を休養させた準々決勝の仙台育英(宮城)戦で先発登板した荻原吟哉投手の好投など、ここぞの場面での集中力と勝負強さが際立つチームだった。
■勝負は本番前に8割決まっている!
その星稜高校野球部で2013年からメンタル面の指導をしているのが、メンタルコーチの飯山晄朗さんだ。
甲子園という日本中が注目する大舞台でも萎縮することなく実力を発揮できるメンタルを作るために、どんなことを選手たちに教えたのだろうか。飯山さんは著書『勝者のゴールデンメンタル ―あらゆる仕事に効く「心を強くする」技法』(大和書房刊)で「本番に強いメンタル」の作り方を明かしている。
その一つが、大舞台への臨み方だ。
飯山さんが選手たちに「これまでの試合で自分の力が発揮できた時とそうでなかった時で、何がちがったか」について聞くと、力が発揮できた時は
「みんなと会った時に全員明るかった」
「試合会場に着いた時に、会場全体を見渡せた」
といった回答があった一方で、力を発揮できなかった時は、
「ウォーミングアップで声を出していなかった」
「会場に入った時に緊張した」
といった回答があった。つまり、力を発揮できた時は、試合前から精神面がいい状態に整っていたのだ。
心が整わない中で、試合の時だけいい精神状態を作るのは難しい。本番でベストの力を出すには、「プレーボール」を試合開始と見なすのではなく、試合の日の朝目覚めた時から勝負は始まっていると考えて、メンタルを整えておく。これはスポーツの試合だけでなく、商談や受験でも同じだ。勝負は本番前に8割決まっているのである。
■最悪を想定しておく
本番前の緊張から悪いイメージばかりが浮かんでしまう「マイナス思考」よりは、なんでも前向きにとらえる「プラス思考」の方がいい。
ただし、前向きなイメージを持つことだけに集中して、予期せぬ事態を想定していないと、結局は本番であわてることになってしまう。ノーヒットピッチングを続けていた投手が、初ヒットを打たれた直後に突然崩れてしまうことがあるのは、ペースを乱される出来事があった後、メンタルを立て直すことができなかったことも一因だろう。
真のプラス思考とは、悪いイメージを頭から排除することではない。
「最悪を想定して、最善をイメージできる」のが真のプラス思考だと飯山氏は言う。
■気が散ってしまう時は「アイコントロール」を
ある時、高校野球の秋季大会で、試合中に雨が降ることが予想される日があり、飯山氏は投手に「雨に集中するのではなく、一点に集中しよう」と声をかけたことがあった。
試合中に雨が降ると、投手は手先が濡れることやマウンドがぬかるむことが気になり、試合よりも雨に気をとられてしまいやすい。そんな時に有効なのが「一点集中」なのだという。
人間の脳は、何か一点を集中して見つめることで集中できるようになる。このように、視点を一か所に固定することで集中力を高める方法を「アイコントロール」という。このアドバイスが効いたのか、投手は雨が強くなった中盤以降に調子を上げて、試合に勝つことができたという。
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スポーツの世界でも、ビジネスや受験の世界でも、メンタルが結果を左右するのは同じ。どの世界にもいる「本番に強い人」は、例外なくメンタル面が充実している。
本書では、ここで取り上げたものの他にも、大舞台で力を発揮できるメンタルの作り方が詳しく解説されている。緊張感で頭がはたらかなくなったり、体が固まってしまう人や、予想外の出来事に慌ててしまう人。ピンチになると頭が真っ白になってしまう人など、「本番に弱い人」にとって、参考になるところは大きいはずだ。
(新刊JP編集部)