だれかに話したくなる本の話

ソリューション・ビジネスで意識すべき情報の「重要性」と「種類」とは

「モノが売れない時代」と言われて久しい。
これまでのように、商品を仕入れ、営業をかければ売り上げが立つ時代ではなくなった今、企業にとって大事なのは、顧客の困りごとや潜在ニーズをいかに汲み上げ、その困りごとへの解決法として自社の商品を売るソリューション型ビジネスである。

『「最強」ソリューション戦略』(日本経済新聞出版社刊)は、このソリューション型ビジネスで勝つためのノウハウを明かす一冊。今回は本書の著者で、経営コンサルタントの高杉康成氏に、ソリューション型ビジネスに必要な要素や組織作り、そして失敗する原因について語っていただいた。

■情報には「営業情報」と「開発情報」がある

――『「最強」ソリューション戦略』の冒頭にもありましたが、今はものを作って売るだけではなかなかビジネスがうまくいかない時代、ということでソリューション戦略の重要性はかねてから指摘されています。高杉さんはソリューション戦略を導入しているもののうまくいっていない企業には「3つの勘違い」があると指摘されていますが、この勘違いに陥る原因についてまずはお話をうかがいたいです。

高杉:「ソリューションとは何か」という本質の部分を理解しないまま、ブームに乗るような形ではじめてしまっている会社が多いというのが、まず言えます。

たとえば、テレビのCMなどでも営業向けに、名刺管理ですとかマーケティング・オートメーションのデジタルツールを入れればソリューション力が上がるといった宣伝の仕方をしていますが、ツールを入れるだけで顧客の深いところのニーズを引き出せるかというと、そんなことはなくて、現状はまだ対話によるアナログなコミュニケーションが必須です。

この本の中で「デジタルとアナログの融合」と書いていますが、これはこうしたデジタルツールを妄信してしまうことへの警鐘の意味合いがあります。

――顧客の課題を解決する「ソリューション」「ソリューション力」はここ数年よく聞かれるようになりましたね。

高杉:そうですね。おっしゃるようにモノを作るだけでは売れなくなってきていることが大きいと思います。

特にインターネットが普及したおかげで、BtoBでモノを仕入れて売っていた地域商社などは、単なる「御用聞き」になってしまい、不要になってきました。相手も忙しいですから「何か必要なものはありますか」と聞くだけの訪問なら、メールでやればいいですし、必要ならネットを使って自分で頼めばいいわけです。

――なるほど。

高杉:地域商社に限った話ではなくて、弁護士や税理士、会計士も数が増えてしまいましたから、普通にやっているだけでは職業としてなりたたなくなってきていますし、金融機関もそうですよね。金利で稼げなくなったから、たとえばA社とB社をつないで手数料を取るビジネスマッチングを銀行や証券会社はやっていますが、それももういろんなところがはじめてしまって、レッドオーシャンになってしまった。

だから、M&Aや事業継承といった提案型の課題解決、つまりソリューションをやらないと生きていけなくなっています。いろいろなところでソリューション型ビジネスを始める必要は生まれてきていますね。

――高杉さんの提唱するソリューション戦略のあるべき姿について第1章で紹介され、第2章ではソリューション戦略の構造が明かされています。この戦略がどのように作り上げられていったのかについてお聞きしたいです。

高杉:この本で書いたソリューション戦略は、厳密には私のオリジナルではありません。以前に在籍していたキーエンスという会社がすごくソリューション力の高い会社でして、そこのやり方が基になっています。

――ソリューション戦略は「ソリューション活動」「教育システム」「組織支援」「モチベー ション向上」の4つが連動することでパフォーマンスが最大になります。この連動を作り出すために組織のマネジメント側にはどのような取り組みが必要になるのでしょうか。また、高度に組織化されたソリューション戦略を導入するにあたって、マネジメント側はどこから手をつけるべきなのでしょうか。

高杉:まず考えないといけないのは、自分たちの会社の提供価値です。どんなものを売っていて、何が顧客にとっての価値なのかをまず把握することが肝心で、そこに「ソリューション活動」「教育システム」「組織支援」「モチベーション向上」というソリューション戦略の4つの要素が絡みあってきます。

その意味では、この4つのどこから始めるかというのは、会社によって違ってきます。たとえば、商品力がすごく高い会社があるなら、その商品力をどうやって顧客に提案するかというところがポイントになる。となると「この商品のどこを、どんなお客さんに提案するのか」という話になるはずで、営業に行く前の事前報告と、行った後の事後報告で情報を集めながら提案力を磨いていくことになります。

また、システムインテグレーションといって企業間のアライアンスをするような会社なら、アライアンスをするための「教育システム」のところが大事になってきます。自社の強みと顧客が何を求めているかによって4つの要素のどこを強化するかを決めていけばいいと思います。

――自社の強みを把握したうえで、必要なところを埋めていくというイメージですか?

高杉:それは一つあります。もう一つは自社の弱点を把握したうえで、できていないところを補強して全体の最適化を図るというやり方もあります。

本の中に『「最強」ソリューション戦略・完成度チェックリスト』というのがあって、自社のできているところとそうでないところを把握できるようになっているので、ソリューション活動をするうえでどこから手をつけるかを考える参考にしてみていただければと思います。

――4つの要素の一つ「ソリューション活動」では、「情報力」がキーワードになります。顧客の潜在ニーズを探るための高度な情報を部署の全員が共有するためのポイントを教えていただきたいです。

高杉:3つほどあります。一つは情報に価値があるということを社内でまず認識することです。「情報が大事だなんてわかっているよ」と思うかもしれませんが、多くの企業は情報の扱いが雑です。

たとえば、顧客のニーズにつながる重要な情報を掴んでも、社内のグループウェアに投稿して終わり、というケースが非常に多い。それもそのはずで、情報を集めたり情報を共有することに対するインセンティブもなければ、周囲の人も共有されている情報にさして関心を持っていません。また、ミーティングを開くにしても、情報交換が目的のミーティングってなかなかみんな時間をとらないんですよ。「情報は大事だ」と口では言う割に、会社として大事に情報を扱っていない現実があります。

――今は日々目にする情報量が多いので、なかなかすべては見きれないという事情もある気がします。

高杉:顧客の困りごとを察知したり、潜在ニーズをつかんでいい提案をしようと思うと、顧客との「情報ギャップ」を作らないといけません。顧客は知らないけど自分たちは知っているということをいかに作るかがソリューションの前提なんです。そのためには日々情報を集めて共有することが大事なんですよ、ということは本の中でも口を酸っぱくして言っています。

――2つ目はどんな点ですか?

高杉:情報には「種類」があることを理解することです。多くの企業が顧客の情報を社内で共有しているのですが、集まってくる情報のほとんどは「何が何個売れた」という表面的な売買に関しての「営業情報」か、顧客から寄せられたクレームの情報です。

これに対して、ソリューション活動で大事なのは「開発情報」といって、「顧客がどんなことに困っていて、現状はどうしているか」という情報です。こういう情報は本当に少ない。

――なぜ少ないのでしょうか。

高杉:そこに意識を置いていないからです。ソリューション活動には開発情報が大事だという認識もないですし、そもそも情報には「営業情報」と「開発情報」」があるということを知っている会社は極めて少ないんです。

――情報には種類があることを理解して、欲しい情報を指定しないと、集まりやすい情報だけが集まってきてしまう。

高杉:そうですね。開発情報を取りに行きなさいと指示をして、そのための訓練をすべきなのですが、会社側もあまりそういうことはやっていません。

私はソリューション型ビジネスのための研修をやったりもしているのですが、ロールプレイングをしても、集まってくるのは「いつ売れるのか」「競合はいくらで売っているのか」「予算はいくらか」という情報ばかりですから。

3つ目は、ファシリテーターです。部署内で情報交換ミーティングを開いても、話が脱線したり散漫になってしまったり、うまくいかないことも多いんです。だから、ミーティングの全体を俯瞰できる人がファシリテーターになって、脱線したのを戻したり、面白い情報を掘り下げたりすることで情報の引き出しが増えやすくなります。

(後編につづく)

『「最強」ソリューション戦略』

「最強」ソリューション戦略

本書は、ソリューション提供を実現するための強い組織づくりについての初めての書。営業のやり方から、日常の報連相などの活動、ミーティング活動、KPI(重要業績評価指標)設計、SFA(営業支援システム)の活用方法、目標管理制度、人事評価制度のポイント、支援部隊のつくり方、販売ツールなどのポイントなど全体を網羅して解説します。

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