だれかに話したくなる本の話

円安でも輸出は増えない アベノミクスが経験した大誤算とは

ビジネスパーソンであれば、誰もが目にする経済ニュース。
経済に詳しくなくても、毎日見ていればそれなりに理解できるようになってくるため、ついニュースや記事の内容を鵜呑みにしてしまいやすいのだが、ちょっと待ってほしい。

GDPが増える=景気が上向いている
円安になれば輸出が増える

このような経済ニュースでよく見かける、というよりは経済ニュースを理解するための前提となっているセオリーは、本当に正しいのだろうか?

『ニュースに出る経済数字の本当の読み方』(角川総一著、WAVE出版刊)はこうした経済のセオリーや、当たり前に信じられている言説に含まれる間違いや誤解を明らかにしていく。あなたの経済知識はもしかしたらまちがっていたり、古くなっているかもしれない。

■「円安になれば輸出が増える」は本当か?

経済ニュースを見るうえでまず覚えておくべきは、多くの経済指標には「名目」と「実質」の数字があるということだ。この二つは異なった数値になることが多々ある。

では、「円安になれば輸出が増える」というセオリーを見てみよう。
実はこの言説に基づいて経済政策を行って失敗したのが安倍政権だ。

2013年4月から始まったアベノミクス下の異次元経済緩和で、円安が進んだのは記憶に新しい。翌2014年までに1ドル100円から120円へと、2割ほども円が下がったため、輸出は増えることが期待されたが、現実には期待とは異なる結果となった。

ここで注目すべきは、輸出には「額」と「量」があるということ。「輸出が増えた」という時は、どちらが増えたのかをきちんと把握しておかなければ、事実を見誤ってしまう。

アベノミクス下で進んだ円安で増えたのは「額」の方だった。1万ドルの商品を売って100万円だったものが120万円になるのだから、これは当然の結果である。ただ、これは「1ドル100円⇒1ドル120円」という為替の変動によって売り上げが水増しされただけの、「追い風参考記録」。日本の輸出の実力が伸びたわけではない。いわば「名目」の輸出増なのだ。

一方で、輸出の量が増える、「実質」の輸出増は、円安によって起こることはなかった。「円安を促すことで輸出数量を増やし、それによって国内生産が増えて経済成長率が上がる」というシナリオを描いていた政府の目論見は外れたのだ。

■もう「ドル円相場」と「輸出数量」は関係がない

では、なぜ円安が実質的な輸出増に結びつかなかったのか。
その理由の一つは、日本企業が円安の影響を輸出商品のドル建価格に還元しなかったことだ。

2013年から2014年の時期は、まだ2008年のリーマンショックの影響が色濃く残る時期。リーマンショックの際の急激な円高で大損失を出した日本企業は、たとえ円安になったとしても、「1万ドルの商品が100万円から120万円になったから、9000ドルに値下げしてその分たくさん売ろう」という思考にはならなかった。

買い手側からすると円安になる前も後も商品は1万ドルのままだから、輸出量が増える要因にはならなかったのだ。

もう一つの理由は、輸出物品の変化だという。
当時の日本の輸出物品の主役は、白物家電のような「価格を下げれば売り上げ数量が増える」といった性質のものから、高付加価値製品にシフトしていた。こうしたものは価格を下げたから売れるというものではなく、高くても必要なら買われる類のものだ。

だから、円安になっても輸出量が増えないのは、リーマンショックの後だったからというわけでもない。輸出物品の構成が、円安の恩恵を受けにくくなっているということだ。

実際、日本銀行が2018年に公表した「輸出のための為替感応度」の試算でも、ドル円相場と輸出数量の間にはもうほとんど関係がなくなっているという。「円安になれば輸出が増える」という、一般的に信じられている経済のセオリーは、もう完全に過去のものなのである。

表紙

こうした経済にまつわるまちがったセオリーや、今は事実ではない説に、本書は鋭く切り込み、実態について解説する。

読み進めていくうちに、普段目にする経済ニュースや政府発表の経済指標の中に「これ、おかしくない?」と思う情報が少なからず含まれていることに気づくようになるかもしれない。

フェイクニュースや数字上のごまかしに騙されないために大切な「目のつけどころ」を本書からは学び取れるはずだ。

(新刊JP編集部)

ニュースに出る経済数字の本当の読み方

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