分散投資はもはや不要?「投資は米国1本でOK」の理由とは
「老後のお金」について不安を持ったことがない人は今やほとんどいないはず。
会社を定年退職してから年金受給年齢までをどうやりくりするかという問題もあれば、そもそも暮らしていけるだけの年金がもらえるのかという問題もある。
だからこそ、今のうちに将来のお金の「仕込み」をしておきたい。『毎月3万円で3000万円の「プライベート年金」をつくる 米国つみたて投資』(かんき出版刊)の著者、太田創氏はそのための確実な手法として「米国株指数を投資対象にした投資信託」の積み立て投資を提唱している。
なぜ、今「米国株」なのか、そして氏が「米国一本に投資を」と呼びかける理由は何なのか?資産運用の常識を変えるインタビュー前編をお届けする。
■「分散投資」はもはや不要?専門家に聞く最新の資産運用術
――『毎月3万円で3000万円の「プライベート年金」をつくる 米国つみたて投資』について。まず、今回の本をお書きになった動機のところからお話をうかがえればと思います。
太田:これまでに何冊か資産運用関連本を書いてきて、じゃあ次の本はどうしようかと考えていた矢先にかんき出版の編集者の米田さんをご紹介いただいて「資産形成の本を出したいのですがどうですか」とお話をいただいたんです。
それで打ち合わせをしてみると、米田さんの視点は新鮮でした。金融のプロや業界の人間が金融についての本を書くと、どうしても教科書的になったり内容が難しくなりすぎてしまうところがあります。しかし、編集者はプロとはまた違った視点で金融を見ていますから、その視点を取り入れることでこれまでとは違ったものが書けるのではないかと思ったんです。個人的には、“筋肉バンカー・シリーズ”のような金融コミック小説も書いていたこともありますし。
――金融というと、やったことがない人にとっては難しいイメージがありますが、この本はシンプルでわかりやすかったです。
太田:ありがとうございます。長期の資産形成なら積み立てにした方がいいですし、なるべく早く始めた方がいい。じゃあ何に積み立てればいいかという正解まで示しているので読みやすいのではないかと思います。
この本のメッセージは「米国株指数を投資対象にした投資信託にすべし」とシンプルです。なぜかというと、初心者があれこれ選ぶと失敗しやすい。もちろん失敗も経験ではあるのですが、「授業料」を払わないといけませんし、取り返しのつかない失敗をしてしまうこともあります。
投資というと「一攫千金」の夢を見てしまう方は多いのですが、そんなことは実際にはほとんどありませんし、勝ち逃げできるほど世の中甘くない。どこかで大きく損をするくらいなら、最初から着実に積み立てる方が結局は資産形成には近道なんです。
――本書では米国株を対象にした投資信託に月3万円を30年間積み立てて、3000万円の資産をつくる手法が明かされています。30年間というとかなり長いなという印象です。
太田:若い方は長いと思うかもしれませんが、僕の年齢になってみると30年なんてあっという間ですよ。
30年前の投資信託は証券会社の手数料稼ぎのための金融商品という感じでめちゃくちゃなものが多かったのですが、最近になってようやくまともになってきて、この本で紹介しているようなまともな商品も出てきています。
――太田さんの提唱する投資法はEU圏や他の地域に投資先を分散させず「米国一本」に投資する点が特徴的です。この理由はどんなところにあるのでしょうか。投資先は分散させるのがセオリーだと思うのですが。
太田:一つ言えるのは、かつてセオリーとされていたことが今は通用しなくなっているということです。昔は「投資を株式と債券に分散させておけばリスクヘッジになる」というようなことが言われていて、実際に株が下がっても債券が上がったりしていたのですが、今は金融にしても実体経済にしても、米国を中心として世界の動きは同期していますから、何らかの金融危機が起きると一緒に下がりますからね。
例えば、国債を20年とか30年間、上がろうと下がろうと売らずに最後まで持っている人は別として、今は昔とはリスクの種類が違うといいますか、特にリーマンショック以降は昔の投資の教科書には当てはまらない時代になっています。
――なるほど。
太田:また、マクロ視点で見ると米国という国自体がひとつの持株会社やヘッジファンドであるとも捉えられます。世界のほとんどすべての場所に米国の企業は進出しているわけですから。
こういう状況で国際分散投資を厳密にやる必要があるかというと、私は必要ないと思うんです。「これから中国が来る」とか「アジアが買いだ」とかいろいろ意見はあるかと思いますが、ひとまずは米国に投資しておけば間違いはないというのがこの本で伝えたかったことです。
――取引量でも米国市場は群を抜いていますからね。
太田:世界の証券市場の時価総額の約半分は米国ですからね。半分が米国に集まっているのにわざわざ中国やEUに分散させる必要はないと思いますよ。
――「毎月3万円を30年間積み立て運用して3000万円」が実現するための条件がありましたら教えていただければと思います。
太田:月々3万円の積み立てで、この本で紹介している投資信託に投資するのが大前提ですが、結果的に円ベースでの利回りが6%で回っていれば可能です。もっと増やしたかったら積み立ての額を増やしていただくのがいいと思います。
――今後30年間は米国が金融その他で世界ナンバーワンであり続けるという考えが前提にある投資法だという気がします。
太田:もちろん「これからは中国の時代だ」と思う方は中国企業を対象にした投資信託に積み立てればいいのですが、私はそれはないのではないかと思っています。
評価は別として、技術にしても文化にしてもまだ米国は世界のトップです。今後技術分野で中国から何か重要なイノベーションが起きるかというと、私にはそうは思えませんし、アップルやグーグル、フェイスブックのような会社が今後出てくるとも思えないんですよ。
一方で米国がもし没落したら日本も没落しますし、中国だってただでは済みません。今後30年で金融分野の勢力図がひっくり返るようなことはないと思いますね。
仮に何かあって目標利回りの6%に届かず3%にしかならなかったとしても、それでも決して悪くはないでしょう。30年間かけて積み立てた努力の結晶が得られるのですから。
――日本企業を対象にした投資信託と比べると、どのようなメリットがあるのでしょうか。
太田:バブル崩壊後、日経平均株価はまだピーク時の半分ちょっとまで戻しただけです。その市場と、経済危機のたびに一度は落ちても必ず元の水準まで回復して、なおかつ過去30年間で年間平均+8%くらいの上昇率、つまり11倍になった米国株式市場を比べてどちらに投資しますかという話です。
決して日本について悲観しているわけではありませんが、こうして比較してみても長期で積み立てるなら米国の方が優れているというのは明らかだと思います。
――まして日本の景気は外需頼みといいますか、国内消費が大きく上向く見込みは薄い状態です。
太田:日本のGDPの中の個人消費の割合は6割弱で、ここが必要以上に増えるのがバブルです。それが今後起きるかというと、ちょっと考えにくいですよね。本当はバンバン来てほしいとは思いますが。(笑)
米国は景気が加熱する兆候があると金利を上げて抑えにかかりますし、景気の回復がいまいちだと思ったら今度は金利を下げる。日本やヨーロッパと比べて中央銀行の施策にきちんと効き目があるというのも米国市場の安定性の要因になっています。
(後編につづく)