相続税の節税には不動産? その理由と気をつけるべき落とし穴
平成の終わりにかけて話題にのぼることの多かったワードの一つが、2010年に新語・流行語大賞にもノミネートされた「終活」だ。その中でも特に「相続」は本人だけでなく家族にも影響が及ぶため、早い段階からの対策が必要と言われている。
『結果に差がつく相続力 相続税を減らすコンサルタント活用術』(曽根惠子著、保手浜洋介著、総合法令出版刊)は、主に資産家向けに相続の流れや不動産の節税対策について説明する一冊だが、不動産関連の相続は税理士でも弁護士でもなく、専門の「相続コンサルタント」に任せることをすすめている。
「相続コンサルタント」とはどんな仕事をするのか? 共著者の一人で相続コーディネートを主業務とする株式会社夢相続代表取締役の曽根惠子さんにお話をうかがった。今回はその後編だ。
(新刊JP編集部)
■2018年民法改正で気をつけるべき項目とは?
――本書では不動産を活用した節税について解説されていますが、なぜ不動産が相続税対策に効果的なんですか?
曽根:不動産にするとその際の「評価」で納税額が決まるので、評価額を減らすことができれば節税対策になります。
例えば現金1億円ならば、相続時にも価値はそのままですから節税にはなりません。でも、現金1億円で一棟マンションを購入すると、土地は約64%、建物は約28%の評価となります。つまり、それぞれ5000万円で土地は約3200万円、建物は約1400万円となるんですね。それを合わせると約4600万円。評価額は約46%と半分以下になります。もちろん、路線価の時価や借地権などによっても変わってきますが、だいたいそのような計算になります。
また、分譲マンションの1室ですと、時価1億円のタワーマンションの1室を購入した場合、2419万円、約25%の評価となった実例があります。タワーマンションは節税効果が高いという話はそういう理屈なんですね。
これらの計算は、本書で図表にして説明をしていますので、ぜひそちらを参考にしていただきたいのですが、現金でもっているよりも不動産の方が評価は下がり、節税に効果的と言えるんです。
――その不動産は賃貸物件にすると。
曽根:そうですね。賃貸不動産にすれば家賃収入を得られますし、自宅として使うのであれば、「小規模宅地等の特例」という大幅に評価額が減る特例を使うことで節税になります。
――ただ、家賃収入を見込むにしても不動産の選び方は注意が必要そうですね。
曽根:そうですね。収支のバランスがちゃんと取れるのかは見定めないといけません。特に賃貸はスタートが肝心ですから、住居の需要があるエリアに建てるなどの「見る目」は必要になってきます。
――まさに不動産投資的な視点ですね。
曽根:そうです。節税で終わりではなく不動産賃貸事業として考えるべきで、不動産にするからには20年、30年と継続できないことには本末転倒です。その見極めは必要でしょうね。
――例えば40年、50年前に建てられて、もうかなり古くなって住み手もつきにくいという物件もあると思います。
曽根:確かにずっと不動産を持ち続けないといけないことが一つのリスクになっていますよね。もし若い頃に建てたアパートが、自分が70代、80代になって次の世代を考えた時、売却をして別の不動産を建てるとか、資産組み替えをしていく必要はあるはずです。ただ、地主さんの多くは自身が持っているものを自分世代では持ちこたえさせて、次に渡そうと思われています。
空き地のまま渡すにしても、急に空き地を渡されても税金だけかかって利用できないし、困るというお子さんもいらっしゃいます。やはり相続人であるご家族が負担のない状況で渡したいですよね。
――都市部ではなんとかなるにしても、地方、特に農村地では「こんな何もない土地を相続されても」ということが起きていると聞いたことがあります。
曽根:最近ご相談いただいた70歳の方も、息子が2人いらっしゃるのですが、自分の親の土地から離れて暮らしているために愛着もないので、土地を売って処分をして現金に換えてそのまま贈与するか、別の不動産を都心に購入するかという話をしました。次の世代に負担がないような形をつくるためには、思い切りが大事ですね。
――最近週刊誌で「終活」の特集をよく見ますが、「終活」ブームの影響で相続の相談件数が増えたというのはありますか?
曽根:「終活」ブームというよりは、平成27年の相続税増税がインパクトありましたね。あの時、一斉にテレビや雑誌で特集が組まれて、それを機にご相談に来られる方が増えました。特に増えたように感じられるのは生前対策の相談で、今では生前対策と亡くなられたあとの節税対策の相談数は半々くらいです。
――では、このお仕事を始めてから約30年、近年特に増えていると思うトラブルはありますか?
曽根:ご家族によってトラブルの内容も異なりますが、以前に比べて主張される方は増えてきましたね。法律のことを勉強なさって、法定割合分もらえる権利があるとおっしゃったり。
――そういえば、2018年の民法改正で、亡くなられた被相続人の介護をしていた相続人以外の親族も金銭を請求できるようになりました。これは大きい変更ではないかと思います。
曽根:特別寄与料が請求できるようになりましたよね。今まではもめるポイントの一つでした。同居していた長男夫婦が介護をしていて他の兄弟は何もしていなかったのに、相続となったらそのお姉さんが「4人兄弟だから4等分ね」と言われ、もう喧嘩ですよ。私たちが間に入ってなんとか場を落ち着かせましたが、一番理不尽な想いをされていたのは長男のお嫁さんだと思います。
それが、今後は特別寄与料という形で払われることになりました。これは良いことだと思うのですが、それでも感情面のこじれというのは残ると思います。権利があるからといって堂々と請求するのか、と思う相続人もいらっしゃるでしょう。
そうした意味でも介護をスタートするときから、介護を引き受けるのであればどのくらい特別寄与料を払うのかということを家族内でルール決めすることが大事です。そのために、私たちは「介護ノート」というスマホで記録できる情報共有のツールを作っています。そこで介護の記録をつけてご家族で情報共有していただこうと。
――確かに介護の大変さは実際にやっている人でないと実感できませんからね。
曽根:そうですね。どんなことが起きているのかは見えませんから。
でも、一番の理想は被相続人がちゃんと遺言に介護してくれる人にもお金を相続すると決めて遺言書に盛り込むことですね。
――もう一つ、2018年の民法改正の中で他に覚えておくべきポイントがあれば教えて下さい。
曽根:「配偶者居住権」が創設されましたが、これは扱いが難しいんです。今まではこれまで住んできた家について「所有権」だけがありましたが、その家を配偶者とは別の人が相続しても、配偶者はそのまま無償で住むことができる権利です。
これまでは配偶者が所有権を取るというのが定番でしたが、相続の際に不動産を売却しないと子どもに相続の取り分がねん出できないというケースもありました。でもこの「配偶者居住権」を選択することで、現金を相続できるケースが増えるわけです。
しかし、配偶者居住権をどんどん活用すべきかというとそうではありません。例えば定年退職前に夫が亡くなった場合、所有権が子どもに移っていると「老後の資金として家を売ろう」としてもできないんです。また、子どもの同意を得て家を売ってもそれは子どものお金になります。
配偶者居住権を選んでいい人は、子どもと同居していて、最後までその家で暮らそうと決めている人ですね。また、亡くなった夫の先妻に子どもがいて、その家をその子どもに戻さないといけないというとき。その2つのパターンかなと思います。いずれにしてもこの選択は難しいので、専門家に相談すべきです。
――具体的に何歳頃から相続の準備をすべきですか?
曽根:私たちは遺言の証人業務も受けていますが、やはり70代が一番多いです。まだお元気で意思がはっきりしているので、その辺りから始めるのも良いと思います。
――『結果に差がつく相続力』をどのような方に読んでほしいですか?
曽根:本書は主に資産家向けに書いています。不動産をたくさん持っているなど、節税対策が必要な方にはぜひ読んでいただきたいですね。
――具体的にいくらくらいの資産を持っている方でしょうか。
曽根:2億円以上の財産を持っている人は対策が必要です。不動産をお持ちの方。現金を多く残している方に読んで頂ければと思います。
(了)