だれかに話したくなる本の話

投資の神様が徹底して投資するビジネスの正体とは?

「ストックビジネス」に対して、どのようなイメージを持っているだろう。
多くの経営者や事業責任者は、会社に安定収益をもたらすビジネスではあるが、ビジネスとして軌道に乗せるまでにそれなりの時間と労力がかかる、と考えているのではないだろうか。

ただ、継続した売上をもたらすストックビジネスは中小企業にとって強い味方となる。
だからこそ、ストックビジネスの成功確率を上げる方法をぜひ知っておく必要があるはずだ。

今回は『中小企業の「ストックビジネス」参入バイブル』(クロスメディア・パブリッシング刊)の著者で、自らの企業でもストックビジネスの多角化経営を成功させている小泉雅史氏にインタビュー。ストックビジネスのキモを豊富な事例を通して教えていただいた。
(新刊JP編集部)

■キャッシュフロークワドラントを知って頭の中がスパーク

――まずは小泉さんとストックビジネスの出会い、そして本書を執筆しようと思った経緯をお聞かせ下さい。

小泉:私はもともと経営コンサルタントとして買収ファンドビジネスの方と組んで買収した企業のバリューアップやキャッシュフローの改善を行っていたのですが、リーマンショックで痛い目に遭いました。つまり、多くのプロジェクトが不況で止まってしまったんですね。さらにリーマンショックの数週間前には、なんと六本木ヒルズのリーマンブラザースのオフィスで商談していましたので、リーマンショックはとても他人事ではありませんでした。

――そこでコンサルティングフィーだけでやっていくことの不安定さを痛感したわけですね。

小泉:そうです。コンサルタントの収入だけに頼ると大変なことになると身をもって体験 しました。もう一つは、当時、ロバート・キヨサキの『金持ち父さん貧乏父さん』を読んで、「キャッシュフロークワドラント」というフレームワークを知り、インスピレーションを受けたことも大きいです。

キャッシュフロークワドラントは4象限の概念で、ビジネスへの関わり方を「E: Employee(従業員)」「S: Self employee(自営業者)」「B: Business owner(ビジネスオーナー)」「I: Investor(投資家)」によって定義しています。私はそれまで「B」「I」をあまりよく知らなくて、「ああ、これだ」と頭の中がスパークしたんです。

――「B」と「I」に踏み出そうと考えたわけですね。

小泉:はい。「B」「I」について色々研究するうちに、投資の神様バフェットの一連の著作を読むようになり、ストック性の高いビジネス、つまり「ストックビジネスに投資して経営する」という経営手法に出会いました。その視点・考え方を通して、これまでの自分の事業経験を振り返ると、成功しているビジネスはみんなストックビジネスだったことに気づき、ストックビジネスを自社の経営戦略の中心に据えようと思いました。

そこが本書のテーマになっているストックビジネスの入り口でした。そして なにができるか考えた時に思いついたのが不動産投資でした。さらに、近年は米国オマハのバークシャーハサウェイの株主総会に出席して、バフェットから直接、ストックビジネス投資法・多角化経営法を学ぶようにもなりました。

――バフェットに会った日本人はかなり少ないでしょうから、とても貴重なノウハウを学ばれているのですね。そのノウハウが今回のご著書にも書かれているのでしょう。ところで現在、小泉さんが代表を務めるインキュベーションファクトリーでは、どのような事業を展開されているのか教えて下さい。

小泉:今は主に2つの事業を展開しています。ひとつは自社で行うビジネス投資です。自らプレイヤーとしてストックビジネスの事業投資・多角化経営を実践しています。具体的には、不動産の再生投資やネットビジネスへの投資、ストックビジネスを営む上場企業株への投資などがあげられます。もうひとつは、ストックビジネスへの参入を望む企業に対して参入支援コンサルティングを提供しています。

じつは今回の本を書こうと思った動機は、これまでの「投資・M&Aによるストックビジネス多角化経営」の経験や知識を経営手法として体系化して書籍にまとめることで、日本の中小企業の経営力の向上に貢献したいと考えたからです。

――実際に本書を読ませていただきましたが、その可能性は十分ありそうですね。ところで話はかわりますが、最近はサブスクリプションモデルが注目されています。ストックビジネスとの違いはなんでしょうか?ご著書ではAmazonプライムの事例も紹介されていますが。

小泉:サブスクリプションの語源は英語のsubscription で、もとは新聞・雑誌などの「定期購読」の意味です。 なぜ、サブスクリプションが注目されているのかというと、IT業界では「ソフトウェア販売型」から「クラウドサービス型」にビジネスモデルがどんどん移行していて、必然的にサービス利用に対して継続課金するサブスクリプション方式が注目されるようになりました。 さらにクラウドサーバー技術やIoT、AIによるデータ解析などデジタルテクノロジーの進化によって常時ネットワーク接続型のビジネスが急速に拡大していく中で、IT業界だけではなく他の多くの業界でもITベースのサブスクリプションモデルへの移行が進んでいるからです。所有から利用へ移行するシェアリングビジネスの影響もあると思います。ちなみに、サブスクリプションモデルは英語でsubscription-based modelと書きます。
一方、ストックビジネスですが、これは日本では一般的にビジネス用語として使われていますが、もとは和製英語なんですね。だから外国でストックビジネスと言ってもあまり理解されないと思います。英語ではrecurring revenue modelが近い表現です。意味は「定期的・継続的な収益」です。ストックビジネスは売上継続型ビジネス、同じ畑から毎年安定収穫を得るような農耕型のビジネスです。

――それで両者はどのように違うのでしょうか?

小泉:英語で比較するとわかりやすいですが、subscription-based modelとは「定期課金型モデル」を意味しているのに対して、recurring revenue model は「継続的な収益モデル」を表現しています。つまり、サブスクリプションはより具体的な定期課金という「方式」なのに対して、ストックビジネスは収益継続性という「ビジネス概念」であると考えています。
だから、ストックビジネスという単一ビジネスが存在するというよりも、ストック性が高いビジネス、ストック性が低いビジネスといった「収益継続性のレベル」が異なるビジネスが存在するといったイメージでとらえていただきたいと思います。
たとえば、 私が以前勤めていたドクターシーラボという化粧品通販会社では、ストック性が高い化粧品通販を営んでいましたが、サブスクリプションモデルではありませんでした。
サブスクリプションビジネスを検討する際に、そのビジネスの「ストック性」を分析することがとても重要です。そして、ストック性が極めて高いビジネスに限ってサブスクリプションモデルを導入するべきです。単なる流行でサブスクリプションモデルを導入しても大抵は失敗するでしょう。

■「投資の神様」バフェットとの邂逅

――小泉さんは実際にウォーレン・バフェットにも会いに行っているそうですが、バフェットはストックビジネスを徹底してやっている?

小泉:そうですね。彼がCEOを務めるバークシャーハサウェイは持ち株会社ですが、 彼が成功してきた投資先を見ると、どれもストック性の高いビジネスを展開しています。クレジットカードを発行するアメリカン・エキスプレスの株を取得したり、最近では鉄道会社を買収しています。バークシャーハサウェイは時価総額でいえばGAFAの次くらいの規模ですね。巨大企業です。

――お話をうかがっていると、ソフトバンクとも似ているように感じました。

小泉:孫正義さんはウォーレン・バフェットのやり方を真似していると公言していますよね。IT分野のバフェットになりたいそうです。

――ストックビジネスのメリットとデメリットを改めておうかがいしたいです。

小泉:メリットは安定収入が得られるという点が大きいですね。またストックビジネスの多角化経営を展開することで、中小企業でも安定収益を複合的に積み上げながら、大きく成長拡大できることです。一方のデメリットは立ち上げに時間がかかるということ。ビジネスシステムを構築して改善していくことが求められるので、それなりに時間と労力が必要です。ただ、そのデメリットを解決できる方法も存在します。それは後編でお話したいと思います。
(後編に続く)

中小企業の「ストックビジネス」参入バイブル

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主に中小企業向けに、継続的な売上が入ってくるビジネス=「ストックビジネス」のノウハウをまとめた一冊。

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