だれかに話したくなる本の話

人生100年時代、これから必要とされる人材の特徴とは?

2019年4月には働き方改革関連法が施行されるなど、「働き方」についての議論は尽きない。労働時間の削減、ワーク・ライフ・バランスの実現などが叫ばれる中で、理想と現実の間に大きな歪みが生まれている側面も見受けられる。

元日本マイクロソフト業務執行役員で、現在は働き方改革の支援を行う株式会社クロスリバーの代表を務める越川慎司氏は、著書『働きアリからの脱出』(集英社刊)で、500社を超える企業への調査から9割近くの企業が「働き方改革は成功していない」と感じていることを解き明かす。

では、それは一体なぜか? その鍵は個人が感じる「働きがい」だ。
越川氏に聞く、働き方改革で生まれた「理想」と「現実」の歪みの埋め方、そして個人が仕事の時間生産性を上げて、幸せになれる働き方についてのインタビュー。
後編ではこれから生き残る人材について、そして経営者が知るべき働きがいが高まる3つの要素を教えてもらった。

(新刊JP編集部)

■これから生き残るのは変化に対応できる人材

――個人的な感覚ですが、50代の方々と仕事と人生について話していると、今の20、30代と考え方が全く異なるように感じます。50代はやはり仕事は人生そのものといいますか、仕事を通して年収を上げて、人生を良くするという価値観が強いのかなと。一方で20、30代は先行きが不透明で転職も当たり前というところで、人生と仕事を切り離して考えているように思えます。

越川:それは私も同感です。私も47歳なので「おじさん」の世代に入るのですが、私たちが社会人になったときの幸せの価値観と、今の若い人たちが社会人になったときの価値観はかなり違っています。

私が社会人になった22年前は、20年勉強をして40年我慢して働き、60歳になったら退職金と年金で80代まで悠々自適に暮らすというのが一つの幸せモデルでした。だから我慢をして会社でずっと働いてきた。

でも、今はライフシフトの影響によって、100歳くらいまで生きるのが当たり前になるだろうと言われています。それは、60歳で定年退職して、その後40年生きるということですよね。いやいや、それはお金も尽きてしまうし60歳で引退するのは無理でしょう、と。

政府は定年を70歳に引き上げようとしていますが、逆に言えばその年齢まで必要とされる人材にならないといけないわけです。そうなると、社内外で求められるスキルや知見を持った人材になることが欠かせなくなる。

――データを見ても若い世代の年収は落ちていますよね。こんな状況で自分は今後どこまで働けばいいんだろうと考えてしまいます。

越川:今は100歳まで生きるのが当たり前と言われているけれど、その年齢がさらに延びることもありえます。だから常に求められる人材になる必要があるわけで、そのためには社会の変化への対応力を身につけることが大切です。中に引きこもっているとゆでガエルになってしまう可能性がある。そこに警鐘を鳴らすために、個人向けの働き方改革の本を書いたんです。

――変化への対応力というところで、変化することが苦手という人も多いと思います。そういった人にはどのようなアドバイスを送りますか?

越川:変化しなくても生き残れて自分が幸せならば、無理に変化に対応することはないと思います。ただ、変わらなきゃいけないと思いつつ、なかなか頭が切り変えられていない人が9割以上ではないでしょうか。

それもそうで、人間ってマインドを変えるのに5年以上は必要なんです。すぐに変えられる人はそういません。でも、早めに変えていきたいのであれば、意識を変えるのではなく、まず少しだけ行動を変える。行動を変えれば必ず学びがありますから、それを次に生かす。ちょっとしたスモールスタートを繰り返すということです。

――まさに先ほどの「PDCA」の「D」をやってしまうという話ですね。

越川:そうですね。スモールスタートでリスクを小さくして行動をまず起こす。そして「C」で振り返る。内省をする時間を取るということを会社でルール化してしまってもいいのかもしれません。

これは傾向として出ているのですが、評価をされる人が大きく変化しているんです。これまでは難関資格を持っていたり、業績や実績に基づいたストックに対する評価が年収の決め手になっていましたが、今はフロー型、つまり変化に対応できる人の方が時給は上がっています。

堀江貴文さんが「多動力」と言っていますが、まさにあのタイプに近いですね。今後は特にその傾向が強まると思います。

■改革のカギ“働きがい”は「達成」「承認」「自由」から生まれる

――冒頭で、働き方改革は「社員の働きがいを高めることが大事」とお話されました。確かにすぐに結果を出せる環境ならば働きがいを感じると思いますが、そうではない場合、働きがいを高めることは難しいのではないかと思います。

越川:実はそれ以外にも働きがいを高める方法はあります。16万人に調査を行った結果、働きがいを感じるための要素は3つに集約されました。

一つは「達成」。つまり結果が出るということです。売上や給料が上がるというのもこれですね。
次に「承認」。営業の方はお客様から感謝される場面もあるので分かりやすいですが、内勤や技術系だと社内で必要とされているかどうかが鍵です。例えば廊下で上層部の人から「頑張ってるね!」と声をかけられるだけでも働きがいが上がるという調査結果もあります。
最後は「自由」です。好きな仕事を好きな時間にやりたい。ただ、働き方改革は会社の成長も実現しないといけませんから、自由には責任が伴います。会社から裁量権をもらい、自ら自由な発想で工夫しながら成果を出すことが求められます。

――「承認」は周囲の人たちからの声掛けが重要ということでしょうか?

越川:周囲の人、というよりも特に自分の部門以外の人から認められると効果が高まります。あとは、「間接承認」といって、「他の部門の○○さんがあなたのことを『すごくよくできる!』って褒めていたよ」と間接的に褒めると、承認欲求がすごく満たされます。縦型の組織であればあるほど、その言葉は効きますね。

また、調査の結果、承認欲求が強い傾向にあるのは、営業タイプよりもエンジニアタイプ、男性よりも女性、年配よりも若手でした。他部門と接する機会が少ないと、必要とされているかどうか分からなくなるので、「いいね」と言われるだけでモチベーションアップになりますし、そのモチベーションが将来的な時給アップにつながります。

――そうなると、経営陣や管理職も社員の働きがいを高めるマネジメントをするための勉強は必要だと思います。

越川:今、管理職向けに「働きがいワークショップ」を開いていて、そこで「あなたにとっての幸せは何ですか?」と聞いて、答えをポストイットに書いて貼ってもらっているんです。そうすると本当にバラバラで、「金曜の夜」と書く人もいれば「月曜の朝」と書く人もいます。

さらに、働いている時の幸せは何かと聞くと、こちらも色々な意見が出てきますが、やはり「承認」「自由」「達成」に集約されるんですね。だから、「承認」「自由」「達成」を満たすためにやっていこう、と。

どこに幸せを感じるかは人それぞれです。ただ、ワークショップをした結果、仕事以外で幸せを感じている人が8割以上でした。ならば時間の自由を与えてあげましょう、と。まずは社員一人ひとりの幸せの価値観に関心を持ち、理解して、認める。それを伝えることで社員の幸福度は一気に上がります。

でも、いきなり上司が「お前が幸せを感じるときは何だ?」「働きがいは何だ?」と聞いても部下は話さないでしょう。そのために、まずは上司が自分の幸せや働きがいを部下に伝え、その上で「あなたはどうですか?」と笑顔で聞く。意外とアナログなやり方ですが、それが一番功を奏しますし、上司と部下の関係も深まります。

今、1on1の重要性が指摘されていますが、チャットやメール、会議ではなく、会話の中で価値観を共有したり、アイデアのやり取りをしていたほうが成功に近づく傾向がありますね。

――最後に、本書『働きアリからの脱出 個人で始める働き方改革』をどのような人に読んでほしいですか?

越川:まずは、何かしなくてはいけないけれど、何をしたらいいのか分からない社員の方々。おそらく私の本に興味を持ったということは、変える勇気を持っている方々だと思うんです。その勇気を行動に移すために後半に書かれていることをぜひ試してほしいですね。

もう一つは経営者と人事部の方々にも。働き方改革が上手くいっていない理由とその改善方法を書きました。トップダウンだけではなく、社員個人に裁量権を与えてボトムアップの自発的な改革活動を促しつつ業績を伸ばす。そんなマネジメントをするための方法を書いたつもりです。ぜひ読んでいただきですね。

(了)

働きアリからの脱出: 個人で始める働き方改革

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