言葉の中にひそむ性差別について
みなさんこんにちは。
編集部山田です。
今日はちょっと変わったニュースを。
La RAE se reafirma en rechazar el lenguaje inclusivo (RAE 包括的な言語の拒否を再主張 )
なんのこっちゃという感じですが、ジェンダー関係の割と興味深い話です。
まず「RAE(Real Academia Española)」っていうのは、マドリードに本拠がある、スペイン語の保護と促進を担っている権威のある機関です。
何をやっているかというと、方言の違いや時流などを考慮してスペイン語の発音やスペル、文法を最適化しているんですね。確かに、何年かに一度アクセントの位置が変わる単語があったりします。
で、ここからが本題なのですが、スペイン語には全ての名詞に性別があります。つまり「男性名詞」と「女性名詞」です。それを修飾する形容詞は名詞の性別に合わせるのがルールです。
勘が鋭い人はピンと来たかもしれませんが、これって男女平等の観点から問題になりうるんですよね。
■言語とジェンダーの古くて新しい問題
たとえば「友達」という意味の有名なスペイン語に**「アミーゴ」**というのがあります。
スペイン語で書くと**「amigo」ですが、これは男性の友達にしか通用しません。女性の友達は語尾を「a」にして「amiga」**となります。複数形はそれぞれ「amigos」「amigas」です。
同様のことが**「compañero(男性の同僚)」「compañera(女性の同僚)」や「profesor(男性の教師)」「profesora(女性の教師)」**にも言えます。
何がジェンダー問題かというと、たとえば友達が4人いて、男性が3人女性が1人だったら、文法的には「amigos」になって、1人混じっている女性の存在は無視されてしまうわけです。**「これって差別じゃないの?」**っていう議論がスペイン語圏では根強くあります(他の言語でもあるかもしれませんが僕は知りません)。
日本でもそうですが、近年ビジネスや教育機関では男女は対等であり平等でなければいけないという考え方が非常に重視されますから、こういう表現にかなり気をつかっています。
社内の全員に一斉送信するメールを思い出してください。 はじめに「皆様」とか「各位」とか書きますよね。
スペイン語だとこんな書き方になります。
compañeros(男性の同僚)y compañeras(女性の同僚)
こうしておけば、今のところは大丈夫。
男女平等の時代ですから
compañerosだけでも、 compañerasだけでもダメです。もう片方から「差別だ」と言われてしまう。
だからこそ
compañeros(男性の同僚)y compañeras(女性の同僚)
と両方書くんですけど、いちいち男性形と女性形を書かなきゃいけないのは面倒じゃないですか。
だから、ここ数年で出てきたのが、男女の表記をひとつにまとめて**「compañer@s」**とする書き方。
「@」なら「a(女性形の語尾)」も含みますし、丸の部分が「o(男性形の語尾)」にも見えますよね。これで男女両方を指すという寸法です。
僕はこれいいアイデアだなと思うんですけど、スペイン語を司る先述の「RAE」が認めないわけです。まあ、認められなくてもみんな使っているから既成事実化しているのですが、彼らが認めないと辞書に載らないんです。
先日発表した新しいスペイン語の指針を示すマニュアルでも「既存の文法規則に従うべし」として、やはりこういう表記を認めなかったというのが冒頭のニュースの要旨です。
これみなさんどう思いますか?
パスポートなど公的な書類で、男性でも女性でもない「中立(ジェンダーニュートラル)」を第三の性として認める国が増えつつあるという話がありますが、これが広まったら、さっきの「compañeros(男性の同僚)y compañeras(女性の同僚)」は男性と女性しか想定していないため、アウトになるかもしれません。
それならば、いっそ英語のごとく名詞の性別なんて取っ払ってしまえという話も当然出てくるはずですが(たぶん、取っ払ってもさして困らないはずです)、超保守的なRAEは認めないでしょうね。
ジェンダーイクアリティの問題であり、人間が言葉に従うべきか言葉が人間の状態に合わせるべきか、という難しい問題でもある「男性形」「女性形」のお話。
個人的には言葉の方を人間に合わせて変わるべきだと思うんですけどね。所詮は言葉はコミュニケーションの道具であって、使う側が心地よく使えるようにカスタマイズするのは許される行為だと思うのだが。どうなんでしょう。