アドラー心理学に学ぶ「働き方改革」を「職場でも家庭でも幸せになる改革」に変える方法
2018年7月「働き方改革関連法」が公布された。しかし、働き方改革の過去の議論を振り返ると、「What(何を目的とした改革なのかと言う前提)」が曖昧なまま、「How(どうやって働き方を改革するかの方法)」に終始していたように思える。
しかし、本当に大切なのは、多くの働く人たちにとって「職場も家庭も幸せになるための改革」であることではないだろうか?
そんな働き方改革の本当の姿を問いかけ、そのために必要な「How」を教えてくれる一冊が『アドラー式働き方改革 仕事も家庭も充実させたいパパのための本』(熊野英一著、小学館クリエイティブ刊)だ。
本書では、アドラー心理学にもとづく対人コミュニケーションによって、夫婦関係、子育てといった家庭と、上司・部下や顧客など職場の対人関係双方に良い変化を与える「幸せになるための働き方改革」が提言されている。そのポイントを本書から紹介していこう。
■ムダな時間をなくして生産性を高める「勇気づけ」のコミュニケーション
職場と家庭において、ムダな時間を削減し、生産性の高い時間を増やす大きなポイントは、「勇気づけ」のコミュニケーションだという。ここで言う“勇気”とは、「困難を克服する活力」を指す。
例えば、上司に叱責されたとき、ミスをした不完全な自分を受け入れ(自己受容)、自分の「存在価値」を否定しないで行為を改善することは、自分に対する「勇気づけ」になる。逆に、「やっぱりダメだ」「自分なんて……」と考えることは行動の意欲を削ぐ「勇気くじき」になる。自分とのコミュニケーションの選び方によって、仕事の生産性に差が出てくるのだ。
家庭でも「勇気づけ」は効果を発揮する。
例えば、自分がやっている家事に対してパートナーから「そのやり方は違う」と言われたとする。
このとき、パートナーに「このやり方のほうがいい」と優劣をつけるような“競争”をしてしまうと「勇気(=困難を克服する活力)」をくじくことになる。 場合によっては夫婦喧嘩が始まるだろう。
しかし、「共有したいから不満があったら教えて?」と“協調”すれば、夫婦というチームの生産性を高める話し合いができる。
二つの例は、「家庭でミスをしたとき」「職場での仕事のやり方で衝突しそうなとき」にそれぞれ置き換えることができる。
アドラー心理学の「勇気づけ」を、家庭で実践し、そこで得た気づきを職場で活かす。逆に職場で得た気づきを家庭で活かす。この好循環をつくることで、家庭と職場両方のコミュニケーションが改善されていく。これが本書で提言する「幸せになるための働き方改革」の大きなポイントだ。
■子育ては「時間」ではなく「質」
仕事が忙しく、子どもと触れ合う時間が短いことを気にする親は多いだろう。しかし、著者によれば、子育ては「時間の長さより、質」が重要だという。どんなに長い時間、子どもと一緒にいても、子どもの勇気をくじくコミュニケーションになっていたらいけないということだ。
アドラー心理学では「ほめる」と「叱る」をもっともやめるべきこととして挙げている。なぜなら、「ほめる」も「叱る」も相手を操作しようとすることになるからだ。そうやって育てられた子どもは、自立心が育まれず、指示待ち人間になる恐れがある。
では、子育てに本当に必要なのは何か。
答えは「さりげない承認」だ。
子どもが「ほめ」「叱り」に値する行動をとったときだけ注目するのではなく、日常の中の当たり前のことに注目する。子どもが興味や関心を持っていることに、親も注目し、「いつも君のことを気にしているよ」と、態度で示すことが大切なのだという。
また、子育ての本質とは、子どもの自立を支援することだ。だから、常に「自分の言動がこの子の“自立”にとってプラスになっているか」という視点をもつことも重要だ。
■家庭と職場の幸せに共通する「アドラー的価値観」
本書では、幸せになるための家庭と職場に共通する4つの「アドラー的価値観」が紹介されている。
1.相手の立場や年齢にかかわらず、対等な人間としてリスペクトする「相互尊敬」
2.無条件に相手を信じ、受け入れる「相互信頼」
3.自己犠牲ではなく、喜んで誰かのために役立つ気持ち「協調精神」
4.相手の関心に関心をもつ「共感」
この4つの価値観を実践すると、家庭では「こんなにやってあげているのに」という義務感が減り、喜んで家事や育児に参加したいという貢献感に変わる。つまり、円満な家庭を築け、そのことが仕事のモチベーションにもなる。
また、職場では、お互いに信頼感が生まれ生産性も向上。帰宅時間も早まるので、仕事だけでなく家庭も充実していくのだ。
「働き方改革」をただの制度やルールの変化と思うのはもったいない。それぞれの個人にとって、働き方改革が「自分と周りの人たちにとっての幸せ」をつくる契機になることが望ましいはずだ。本書は、その一助になる考え方を示してくれるだろう。
(ライター:大村 佑介)