性別適合手術 経験者が語る「激痛」
■OLになりたすぎて〇〇切りました
身体は男性で心は女性…身近にいたらあなたはどう感じるだろうか。
LGBTの問題がよく取り上げられるようになった。SNSでの拡散や、最近はテーマとして扱う書籍も見かける。数年前まではほとんど知られていなかったが、今ではかなり一般的な言葉となっている。芸能界を見てもタレントの同性愛カミングアウへのハードルは以前よりは下がっているといえるだろう。世の中の「LGBT受け入れムード」もあり、オープンにする例も増えてきた。
ビジネスの世界もこの動きに呼応している。たとえば不動産でいうと、LGBTフレンドリーのシェアハウスが東京につくられた。取り組みは多様的かつ寛容になっている。
しかし、徐々に社会に浸透しているものの、いまだ偏見の目を向けられることが多いのも事実である。法が整備されているわけではないので、LGBTの悩みが全て解消されるにはまだまだ遠い道のりがある。
そんななか、「T」にあたる「トランスジェンダー」に注目したい。カラダとココロの性が一致しないことを指し、「性同一性障がい」として手術を望む人もいる。 当事者にとっては非常に深刻な問題だ。打ち明けたくても打ち明けられず、隠して生活し続けることも珍しくはない。
その「性同一性障がい」に悩みながらも、手術をして戸籍を女性に変え、OLとして働くひとりの「元」男性が、上川依子さんだ。手術を受ける前の葛藤や術後の苦労まで、自身の経験をtwitterやPixivで笑いをまじえつつ紹介。コミックエッセイ『さよならちんちん ウェルカムまんまん』(実業之日本社刊)に、それらのネタをまとめている。
上川依子(よりぴちゃん)は会社員として働いていた。男性の「アレ」を隠している以外は至ってマジメなOLだが、会社が倒産することを知り絶望。その後の就職活動で戸籍のことを聞かれ、「男か女かで詮索されるのは煩わしい!」と考えた末、ある結論に…。
「そうだ、タイで「アレ」とおさらばしよう!」
タイで性別適合手術を行い、戸籍を女性に変えることを決意した。同じ境遇ですでに手術をしている友人たちに、どんな方法があるのかを聞き出すことに。 意外な金銭面や、気になる今後の性交渉の事情で手術法を選べるなど、かなり奥深いところまで解説しているのが本書の特徴である。 人工女性器には様々な種類があることをご存知だろうか。手術で痛みを伴わないものもあれば、激痛が襲うものもある。作中で図解しているのだが、これがなんとも生々しく、痛々しい…。ちなみに穴が深くなる手術法も存在するという。「サイズ感は重要」というリアルな事情もコミカルに描かれている。
そしてこの人工女性器、手術に成功したら終わりではない。ピアスの穴と原理は同じで、人間は傷を自己修復しようとして塞ぐ性質がある。放っておくと、せっかくの手術の努力が水の泡となってしまうのだ。
これを防ぐため、「ダイレーション」とよばれる、シリコン棒を入れて術後の穴を拡張する必要がある。初期段階ではかなり頻繁に必要とされ、徐々にその棒が大きくなるという拷問っぷり。快感なんてドコにもない。
なんとかカラダが馴染んできたら、遂に戸籍の変更に取りかかる。手術後の燃え尽き症候群や睾丸摘出によるホルモンバランスの変化で精神的に不安定な時期が続くが、休んでいる暇はない。女性器がきちんと作られているかの確認、戸籍変更の診断書の取り寄せ等でも出費はかさむ。体力的にも、金銭的にもツライ毎日が続いたという。
会社は倒産し、絶望的な状況にも関わらず常に前向きな彼女の姿勢はたくましい。同じように悩むトランスジェンダーにとって、依子の姿は美しく写るだろう。相互理解の求められる難しい問題がユーモラスに描かれている本書は、LGBTの今が写し取られている。
(新刊JP編集部)