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【「本が好き!」レビュー】『現役看護師イラストエッセイ 病院というヘンテコな場所が教えてくれたコト。』仲本りさ著

提供: 本が好き!

現役の看護師である著者が、病院という場所、病棟という現場で経験し感じたことをイラストでつづったエッセイが本書である。

この本を手にしたのは、本が好き!で開催された掲示板企画『働いて生きることってすばらしい!と思える本を募集!』(リンク先は結果まとめ記事)に投稿して当選したからである。ぶっちゃけてしまうと、この本が当たる企画だと気づいていなかったので、家に本が届いたときは「?」と思ったくらいだ。

看護師である著者は、日々患者さんたちと向き合って働いている。著者が勤務している病棟は、外科や内科の患者さんが入院している。短期間の入院で元気に退院していく患者さんもいるし、長く入院生活を送っている患者さんもいる。そして、この病棟で人生の最期を迎える患者さんもいる。

本書に描かれているエピソードのうち、半分は末期がんで人生の最期を迎える患者さんの話だ。人はいつか死ぬ。看護師は、仕事としてたくさんの人生の終焉を見守ることになる。だからこそ、冷静に対処していかなくてはいけない。それでも、人の死を間近に感じることは辛くて悲しいことなのだ。著者は、その悲しさも描く。描くことで、自分の中にある悲しみや辛さを吐き出しているのかもしれない。

一方で新たに生まれくる命もある。著者の同期である助産師のエピソードは、そんな新しい命の現場で起こる生きるための奮闘を描く。妊娠・出産は、人間が体験する無数の出来事の中でもっとも崇高で尊いものだと思う。だが、出産には同時に危険もある。子どもの命、母親の命が危険にさらされ、失われることだってある。本書に描かれるエピソードも、そういう話だ。

本書を読みながら感じたのは、本書に登場する看護師、助産師、医師たちをはじめ、保育士や教師、介護士といった人間の命や教育に携わる職業への尊敬の念であり、そういう崇高な職業に対する待遇の悪さについてだった。彼らは、他人の人生に責任を負う職業である。彼らがちょっと間違えたり、ちょっと気を緩めたりすれば、もしかすると人の命が失われることだってあるのだ。それほど重い責任を負う彼らの多くは、とても十分とはいえない低い賃金で働いている。この国は、人の命や育成に関わる仕事に金銭面で応えようという考えはないのだろうか。

「やりがいのある仕事ができることは最高の報酬だ」という意見もある。しかし、やりがいだけで人間は生きていけない。やりがいとともに十分な報酬を得てこそ、その仕事の本当の意味での“やりがい”が生まれるのではないだろうか。この国は、もっともっと彼らに対して形のある敬意を払うべきだと思う。

(レビュー:タカラ~ム

・書評提供:書評でつながる読書コミュニティ「本が好き!」

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現役看護師イラストエッセイ 病院というヘンテコな場所が教えてくれたコト。

現役看護師イラストエッセイ 病院というヘンテコな場所が教えてくれたコト。

プロの作家ではない著者が看護師の仕事をしながら、病院という世界を知ってもらうため、伝えたいことを伝えるために、体力の限界を感じながらもひたむきに描き続けたノンフィクション256ページ

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