スターバックスの店員が、カップに「ひと言メッセージ」を書く理由とは?
飲食チェーンなどのTVコマーシャルが話題となり、ネット上でもバズった。
SNSでは「あのCM面白かった」「好きになった」などの話題があふれ、トレンドワードにも商品名が載った。
しかし、広告主は「うーん、広告効果としては正直微妙でした…」と顔を曇らせる。
広告の舞台裏では、こんなことがよく起こっている。新規客へのリーチ(到達)を狙ったプロモーションが効かなくなっているのだ。
◆バズって話題になっても、売上アップには繋がらない
新しい話題がリアルタイムに発信される情報過多の時代、仕掛けたプロモーションが話題になっても、数日後には「あー、そういえばそんなのあったね」と忘れられてしまう。いかにバズっても瞬間的なリーチでは、本来の目的である売上アップの達成はむずかしくなってきている。
『ファンベース』(筑摩書房刊)の著者・佐藤尚之氏は、「プロモーションを一過性のもので終わらせず、生活者の消費行動を促すには『ファンベース』の構築が必要」と本書で解説している。
◆顧客生涯価値が高いファンの土台(ベース)を作ることが大事
「ファンベース」とは、ファンを大切にし、ファンをベースにして、中長期的に売上や価値を上げていく考え方のこと。企業はユーザーが共感する価値を高めて信頼関係を作り、ライフタイムバリュー(顧客生涯価値)を上げていくことで売上の土台を構築していく…というようなイメージだ。
実際、パレートの法則(※)は企業の売上比率にも当てはまり、上位20%のファンが全体売上の80%を支えるという会社も珍しくないと佐藤氏は言う。また、企業に共感しているファンの声や口コミは、強力な顧客獲得にもつながる。
大規模な費用をかけて行うプロモーションも、単に話題になって終わりではなく、将来的に売上を支える土台=「ファンベース」の構築につなげていくことが大事といえるだろう。
(※経済において、全体の数値の大部分は、全体を構成するうちの一部の要素が生み出しているという理論)
◆ファンベースの構築は、共感・愛着・信頼
ファンベースの構築には、企業が「大切にしている価値」に対して、ファンからの支持を強固にしていくことが必要だが、佐藤氏はそのためには共感・愛着・信頼の3つが大事だという。
たとえば、あるカフェが「我が家みたいにくつろげる」という価値を大切にしているとしたら、その価値に共感して通ってくれるファン(常連客)の意見をきっちり聞いて、改良・改善を加えて彼らをより喜ばせていく必要がある。つまり、「共感」される価値を高めていくということだ。
次に、その「我が家みたいにくつろげる」という価値を、他には代えがたい特別な価値に感じてもらうように強化していく必要がある。他店ではなくこの店がいいという「愛着」を持ってもらうということだ。
最後に、価値を提供しているカフェの評価を上げてこの人なら大丈夫と「信頼」されることでファンベースが構築されていく。
◆スタバ店員がカップに書く「ひと言」の意味とは?
身近な例を紹介しよう。スターバックスコーヒーで飲み物を買ったとき、カップに「ひと言メッセージ」を書かれた経験がある人は多いと思う。
これはパートナー(スターバックスでは社長も社員もアルバイトも「パートナー」と呼ぶ)によって自発的に始まったもので、マニュアルなどではない。
そもそもとして、スターバックスにはサービスマニュアルは存在せず、その代わり、入社すると社員・アルバイトが共通して行う40時間以上の研修があり、そこでスターバックスの「ミッション」や「行動指針」を深く共有しているのである。
スターバックスのミッションとは、「人々の心を豊かで活力あるものにするために ひとりのお客様、一杯のコーヒー、そしてひとつのコミュニティから」(公式サイトより)というもの。
このミッションが、「パートナー」の主体的な行動を引き出し、ミッションである「人々の心を豊かで活力のあるものにするために」という思いで、お客の表情を読み取って、「ファイト!」とか「お大事に」とか、接客で感じた相手に合わせた“ひと言”を自発的に書いていたのだ。こういう体験は、スターバックスを他に代えがたくさせる「愛着」を感じさせるものと言えるだろう。
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『ファンベース』には、従来型のキャンペーンが思うように売上げに繋がらないという悩みや、ユーザーと向き合い長きにわたって関係を築いていく施策を打ちたいという目的を持っているビジネスパーソンにとってはヒントが多い1冊だ。
(新刊JP編集部)