世界で戦ったアスリートが語る「できない自分」「弱い自分」との向き合い方
仕事をしていれば、他人と比較して落ち込んだり、数字として表れた成果に自信をなくしたりすることがあるだろう。
世界を舞台に活躍するような人間も、そんな思いに駆られることはあるものだ。
では、そこからどのように奮起していったのか?
バンクーバー、ソチと2回の冬季オリンピックに出場し、2014年に現役を引退したフィギュアスケーター鈴木明子氏の 『ひとつひとつ。少しずつ。』(鈴木明子著、KADOKAWA/中経出版刊)には、他人と比較したり、自分のできなさに苦しんだり悩みを抱えながらも、前に進むことの大切さが語られている。
本書から、悩みや不安を解消し、勇気をもらえる彼女の言葉を紹介しよう。
■弱さに向き合うことは、強い人にしかできない
鈴木氏は、自身のことを「できないくせに完璧主義だった」と語る。そうした性格ゆえに自分で自分を追い込んでしまったり、苦しめてしまったりすることも少なくなかったようだ。 彼女は長い間一人で悩み苦しんだ末、どうしても耐えきれなくなると信頼できる人と話をするようにしていた、と述べる。
「何が不安なのか?」「どうしてできなくなっているか?」「どうすればきっかけをつかめるのか?」
話しているうちに突破口が見つかることは多いし、「どうしてこんなことで悩んでいたのだろう」と思い直すこともよくあったと鈴木氏。
ちょっと歯車が狂っただけなのに、すべてがダメになったように感じて「なんだか、不安」になる。 こうしたことは多くの人が経験しているだろう。そんなときは、ひとつひとつを細かく見ていくことで不安な理由がわかってくると述べる。
ただ、不安な理由はわかっただけではまだ足りない。 ここで大切なのは不安な自分を受け入れること。 言い換えれば、「できない自分」を受け入れる、ということだ。
「できない自分」や弱い自分」を見つめることは、情けないことだと思うだろうか? しかし、著者は次のように語っている。
自分の弱さに向き合うことは、強い人にしかできません。
強さがないと、弱い部分を見つめることができません。
「しょうがないよ、できないもん。私なんだから」と思えたら、そこからがスタ-トです。
(p.63-64より引用)
今ある自分の「弱さ」は、決して悪いものではないだろう。弱さから目を背け続けることのほうが、自分をさらに悪い方へと導く。そう考えることができれば、できない自分を受け入れることもできるかもしれない。
■「他人の評価」だけにとらわれない考え方
フィギュアスケートは、タイムや飛距離を競い合うものではなく、点数はすべて他人がつける競技だ。その競技の性格上、点数に納得できないこともあったと著者。
だから、著者は順位や点数以外の「成果」を自分の中の基準として持っていたという。
その成果の基準とは「自分がやってきたことがどれだけできたか」。
自分の評価と他人の評価に大きな違いがあると、なんとも言えない気持ちになるものだが、そのことについて著者は次のように語る。
でも、自分だけの明確な目標があれば、他人の評価にとらわれないでいられるのではないでしょうか。
たとえば、お客さんの喜ぶ顔をどれだけ見られるか?
どれだけ多くの声援をもらえるか?
お客さんは、得点以上の満足感を私に与えてくれる存在です。
(p.68-69より引用)
仕事をしていれば、上司からの評価や、人事査定に直結する数字にとらわれてしまうこともある。でも、他者の評価軸だけで仕事をしているとどこかで苦しむことになるだろう。 そんなときは、自分にとっての、自分だけの基準をつくるといいのかもしれない。
(ライター/大村佑介)