だれかに話したくなる本の話

最速でイノベーションを起こす人材が「売れる」よりも大事にしていること

イノベーションを起こすことは容易ではないと考える人や企業は多い。
しかし、世の中には短期間で連続的にイノベーションを起こし、楽々と競合を抜き去ってビジネスを展開する人間たちがいる。 彼らは、イノベーションをどのような視点で捉えているのだろうか?

その問いに答える一冊が 『DIGITAL DISRUPTION』(ジェイムズ・マキヴェイ著、プレシ南日子訳、実業之日本社刊)だ。

「デジタル・ディスラプター」とは、デジタルツールやデジタルプラットフォームを活用し、顧客に近づき、深い関係を構築する企業や個人を指す。著者は、彼らが従来のやり方しか知らない企業から顧客を奪い、業界にイノベーションを起こしていくと述べている。
では、「デジタル・ディスラプター」とは、一体どのように思考する存在なのだろうか?

■自社の「できること」を出発点にしない思考

従来のいわゆる「破壊的イノベーション」は、それなりの時間を要するし、資金や設備が必要だ。しかし、デジタル・ディスラプターは、ほとんど資金をかけず、数日とかからずイノベーションの種を蒔く。彼らの思考は、従来の企画開発者、マーケッター、経営者とは根本的に異なるという。

多くの人は商品やサービスをつくるとき、「売れる新製品を作るために、私たちには何ができるか?」と考えていく。この思考には次のような背景がある。

つくる:当社には、すでに作り方がわかっている製品を生産する能力がどれくらいあるか?
製品:すでに製品の作り方がわかっている市場はどこにあるか?
売る:どのようにその市場に参入すれば既知の顧客を獲得できるか?

だが、デジタル・ディスラプターは**「顧客が本当に求めているものを提供するために、私たちは何ができるか?」を出発点にする**。そして、従来の人たちが「つくる」と考えることを「提供する」、「製品」を「人々」、「売る」を「求める」と考えていく。

この思考の背景にあるのは次のようなことだ。

提供する:生産力の範囲を超えていたとしても、顧客に何を提供できる能力があるかに着目する。
人々:製品そのものではなく、顧客ニーズに目を向け、その流れに沿って製品決定を行う。
求める:総合的な商品体験が顧客の要望に合っているかを考え、顧客が求めるものを、求めているときに求めている場所で提供する。

顧客ニーズを最優先する思考と、それを最速で実現するデジタルツールやデジタルなインフラの活用。それが「デジタル・ディスラプター」が起こすイノベーションの核になっているのだという。

■顧客の潜在ニーズを掘り起こす「隣接領域のイノベーション」

著者は、「デジタル・ディスラプター」が起こすイノベーションは、隣接領域のイノベーションという手法によるものだと述べる。高品質でデザイン性の高いBluetooth搭載ヘッドフォンで市場の先陣を切ったジョウボーン社はその好例だ。

同社は、競合が参入し、飽和しかかっていたBluetooth搭載ヘッドフォン市場から抜け出し、「モバイル・スピーカー」を生み出し、新たな市場を拓いた。

この新商品の開発にあたってチームがまず考えたことは「スマートフォンに入れてある音楽すべてを最高の音質で聴けるようになったら、人はどうするだろう」ということだった。

この問いから生まれた「ジャム・ボックス」という製品は、ヘッドフォン同様、クォリティーの良い音質と高いデザイン性を実現し、モバイル機器を持ち歩くライフスタイルに役立つように設計され、「モバイル・スピーカー」という新たなジャンルを創造した。
結果、ユーザーは「ジャム・ボックス」をいつでもどこでも音楽を楽しめるスピーカー・フォンとして、電話会議をスムーズに行う高機能ツールとして使うようになった。

この成功を可能にしたのは、デジタルなインフラで顧客とコミュニケートしながら顧客ニーズを掴んだこと。そして、そのニーズに隣接する別の領域のニーズを模索し、そのニーズを満たすための製品開発に邁進したことだ。自社の製品にのみ着目し、「改良版」をつくるだけの企業ではこうはいかない。

本書からはスピード感が増す現代のビジネスにおいて、最速でイノベーションを起こすヒントが得られるだろう。

(ライター/大村佑介)

DIGITAL DISRUPTION

DIGITAL DISRUPTION

この産業構造の激変に乗り遅れてはいけない

この記事のライター

大村佑介

大村佑介

1979年生まれ。未年・牡羊座のライター。演劇脚本、映像シナリオを学んだ後、ビジネス書籍のライターとして活動。好きなジャンルは行動経済学、心理学、雑学。無類の猫好きだが、犬によく懐かれる。

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