だれかに話したくなる本の話

“不特定多数を巻き込む” 企業に画期的アイディアをもたらす方法とは?

ビジネスは「創造的」であることが求められている。
トレンドはめまぐるしく移り変わり、多様性とスピーディーさが企業の生き残る大きなポイントだ。そして、そこで必要になるのは常にイノベーションを起こし続けるための創造的なアイディアである。

しかし、会社や組織という限られた人的資源の中から生み出されるアイディアには、おのずと限界がやってくる。しかし、世界中に普及したデジタルネットワークは、その限界をいとも容易く超えさせてくれるツールとなっている。
『クラウドストーミング 組織外の力をフルに活用したアイディアのつくり方』(ショーン・エイブラハムソン、ピーター・ライダー、バスティアン・ウンターベルグ著、須川綾子訳、CCCメディアハウス刊)は、企業にとって最も必要な創造的アイディアを「クラウドストーミング」によって生み出すための方法を教えてくれるだろう。

「クラウドストーミング」という言葉は、会議室で話し合うブレインストーミングを、不特定多数の人間が関われるクラウドを介することで極めて大きなスケールで行うことだ。 本書では、すでにその手法を使い大きな成果を上げている企業や組織を例に挙げながら、クラウドストーミングを機能させる方法を論じている。

■アイディアのゴミ箱にしないためのプロセス

スターバックスコーヒーは2010年、環境問題への取り組みの一環として使い捨てカップの削減を目指す「ベータカップ・プロジェクト」を立ち上げた。

同社には、クラウドストーミングによって、2ヶ月で430件のアイディアと、それに対する1500件の補足的アイディアが寄せられた。その中から最優秀に選ばれたアイディアは、カップそのものの仕様は変えず、結果的に使い捨てカップを削減する斬新な考えだったという。

企業や組織にとって、よりよい問題解決策のアイディアを社内や組織内だけで募ることはもはやナンセンスと言える。しかし、不特定多数の人間がアイディアを出してくれるようにするため、また、そのアイディア群をまとめ上げて現実のものとするには、適切なプロセスを踏むことが重要だ。
そのプロセスが構築されていなければ、集まるアイディアはゴミ同然のものばかりになってしまうだろう。

本書からプロセス構築のポイントを挙げていくと「参加者に的確な“問い”を投げる」「参加を促す報酬を考える」「参加者の組織化と成果の評価の尺度を決める」「コミュニティを管理し方向付けをする」などがある。

■不特定多数の参加者にビジョンとインスピレーションを与える

クラウドストーミングでプロジェクトを立ち上げるとき、最初に必要になるのは、参加者への呼びかけだ。このとき「参加者に的確な“問い”を投げる」ことができるかどうかで、参加者の数や意欲は決まると言っていい。

より少ないモノと空間と資源で、より多くのお金を健康と幸せが得られる都会生活の実現を目指した「ライフ・エディテッド」というプロジェクトでは、参加者自身に「我々は何を求められているか?」ということを理解させ、インスピレーションを刺激する「的確な“問い”」が投げられている。

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この“問い”は、ビジョンを端的に示し、意欲をそそる文句になっている。

著者はこのような「外部の有能な人材が参加して素晴らしい貢献をしてくれるよう後押しするビジョンの提示」の他に「募集する回答に求める成熟度の提示」「コミュニティと協調関係を築くために必要な情報開示」「評価基準についての透明性」などを、効果的な呼びかけの特徴として挙げている。

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日本企業はグローバル戦略において後塵を拝していると言われる。その要因は、旧態依然とした排他的な体質と組織内だけで団結する文化にあるのではないだろうか。
そうした閉鎖的な環境からはイノベーティブな発想は生み出されにくい。この先の日本の企業の未来は「クラウドストーミング」に代表される、多種多様な人たちの交わりを積極的に持てるかどうかにかかっている。本書からはそのヒントを得られるだろう。

(ライター/大村佑介)

クラウドストーミング 組織外の力をフルに活用したアイディアのつくり方

クラウドストーミング 組織外の力をフルに活用したアイディアのつくり方

あらゆる問いに対して「アイディアを生み出す」方法が本書に。

この記事のライター

大村佑介

大村佑介

1979年生まれ。未年・牡羊座のライター。演劇脚本、映像シナリオを学んだ後、ビジネス書籍のライターとして活動。好きなジャンルは行動経済学、心理学、雑学。無類の猫好きだが、犬によく懐かれる。

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