重要性が高まる企業のSNSマーケティング 担当者を苦しめるその現状と課題
マーケティングが成功のカギを握る現代のビジネスにおいて、「SNS」の存在は無視できないものになっている。
SNS上で情報発信して、ユーザーと上手にコニュニケーションを取っている企業が出てきている昨今、今後さらにSNSの重要性が増すことは容易に想像できるだろう。
そこで今回は、累計400以上のブランド・企業のSNSアカウントの運用実績のある株式会社コムニコの代表取締役社長・林雅之氏に、「これからSNSマーケティングを本格的に始めようとしている企業」に向けてのアドバイスを聞いた。
林氏の著書『デジタル時代の基礎知識『SNSマーケティング』 「つながり」と「共感」で利益を生み出す新しいルール(MarkeZine BOOKS)』(翔泳社刊)は、SNSマーケティングの基礎知識が詰まった一冊。本とインタビューとを合わせて読むことで、その全容が理解しやすくなるはずだ。
(新刊JP編集部)
■重要性が高まるSNS。2030年までには、SNSにかける予算はマーケティング全体の半分に?
――林さんは普段マーケティング専門メディア「MarkeZine(マーケジン)」などで、専門的なマーケティングの記事を書かれています。今回上梓した本は「SNSマーケティング」の入門的な一冊ですが、本書の出版の経緯から教えていただけますか?
林:株式会社コムニコは、2008年からSNSの領域で企業のマーケティングの支援を行ってきました。
はじめの頃は(SNSのマーケティングの利用は)、まだ外資系企業が中心で、大手の企業やブランドが、SNSのアカウントを作って運用しているという状況でした。その後、日本国内でも、ある程度のマーケティング費用をかけて、SNS運用を始める企業が増えはじめて、さらに一昨年くらいになると、大手の企業に限らず、さまざまな企業から相談を寄せられるようになったんですね。
――一昨年くらいからSNSをマーケティングで活かそうと考える企業が多くなったわけですね。
林:そうです。2016年と2017年を比較すると、当社の売上ベースが倍くらい成長していますが、これはここ1~2年で、SNSの支援を求める企業が急増したということを表しています。
ただ、話を聞いてみると、そもそも社内でSNSに詳しい人材がいない、とりあえず「若い」という理由で担当になっている、目標もなく、ただ自社の情報を書いているだけといった具合に、方向性を定めないままSNSの運用を始めてしまっている企業は少なくありませんでした。
当社は2016年の11月、「一般社団法人SNSエキスパート協会」を設立し、SNSマーケティングに長けた人材の育成を進めているのですが、そうした(SNSマーケティングの重要性の)啓蒙活動は、非常に重要だと認識しています。本書もそうした啓蒙活動の一つですね。
――確かに、企業や団体がSNSで情報発信という話はよく聞きます。ただ、多くの場合はアカウントを作ってもなかなかファンやフォロワー数が増えなかったり、反響がほとんどなかったりというケースですよね。
林:前提として、ファンやフォロワーが集まるかどうかということと、反応があるかどうかは切り分けて考えるべきです。
その上で、自分たちがどんな人たちに向けて、どんな情報を発信して、どのようにして共感をしてもらえるか、というところまでちゃんと設計し、運用している企業は、確かに少ないと思います。
自社の新商品について、ただ宣伝しているだけですとか、プレスリリースの配信先の一つくらいにしか考えていないと、逆にファンやフォロワーが遠ざかってしまう一因にもなりかねません。
また、相談に乗る中で、各SNSのプラットフォームの仕様に対する理解が足りていないことも感じます。例えば仕事で(SNS上にコンテンツを)投稿する場合、パソコンから行うことが多いと思いますが、見る側はスマホが大多数です。すると、見え方が違ってしまい、画像が見切れてしまったりするんです。こういう小さな部分の積み重ねが、ファンやフォロワーからの反応の鈍さを生んでいると思います。
――本書の冒頭で「2030年までにマーケティング費用の半分がソーシャルメディアに回される」というフィリップ・コトラーの予測を引用されていますが、実際そのSNSマーケティングの中心にいらっしゃる林さんはどうお考えですか?
林:まずは、これまでのことをお話します。インターネットの発達、そしてSNSの発達によって、誰もが情報発信できるようになりました。その結果、流通する情報量は爆発的に増えましたし、今後この流れが止まることはないでしょう。一般の方々がSNSを通して情報発信をし、そして誰かが発信した情報に触れ続けるという状況は変わらずに続くと思います。
次は今後のお話です。SNSは、今以上に広範囲に影響を及ぼすことになるはずです。例えば最近、「働き方改革」が話題になっていますが、ここにもSNSは影響します。「働き方改革」が、「個人が特定の企業の看板にしがみつくことなく働きましょう。」ということだとするならば、同時に、個人が自分のセルフブランディングを、自分自身でやっていかないといけないということでもあるんです。つまりSNSは、重要なセルフブランディングツールとなり、SNSの重要性は上がっていくと思います。
――「SNS」という言葉について、林さんはどのように定義されていますか?
林:ひと言でいえば現状は、「人とコンテンツがつくりあげるネットワーク」です。人と人のつながりが見えたり、コンテンツを媒介して見知らぬ人同士がつながったり。「人とコンテンツが流通する仕組み」ですね。
ただ、今後は流通するものも増えていくのではないかと思います。例えば、仮想通貨はその一つになると思います。
――仮想通貨がSNSの中で流通すると?
林:そうですね。仮想通貨は一つの例ですが、情報だけではなく、VR(仮想現実)やAR(拡張現実)など新しい技術や価値観がかけ合わさって、よりリアルとの境目がなくなって行くと思います。
(後編に続く)