だれかに話したくなる本の話

夫を失った妻が暮らしのリズムを取り戻す一年。話題の映画のその後を追う。

心温まる老夫婦のドキュメンタリー映画として注目された『人生フルーツ』。文化庁芸術祭 テレビ・ドキュメンタリー部門では大賞を受賞しました。

90歳の建築家、津端修一さんと、87歳の妻、英子さん。
自然に囲まれた2人のゆったりとした暮らしを静かに見つめた映画です。

夫のしゅういちさんが亡くなったのは平成27年。
英子さんははじめての一人暮らしをはじめました。

夫という生きる指針を失ってしまったことで、体調を崩してしまった英子さん。
しゅういちさんの生前は毎日体に優しい料理をつくっていましたが、それもおろそかになり、体重も減ってしまいました。

『きのう、きょう、あした。』(主婦と生活社)は、そんな英子さんが1年をかけてゆっくりと暮らしのリズムを取り戻す様子をおいかけた本です。

しゅういちさんは英子さんに沢山の思い出と言葉を残しました。
その一つが、この本の副題にも使われている「あとみよそわか」という言葉です。

あるとき、明治時代の建造物を移築して公開しているテーマパーク、明治村へ出かけた二人。
しゅういちさんが幸田露伴宅の書院の文机の前に座ったとき「あとみよそわか」という言葉の意味にあらためて惹かれたといいます。

「あとみよそわか」とは露伴が娘の文によく口にしていた言葉。「跡を見て、もう一度確認せよ」、「そわか」は成就を意味する梵語だそうです。

「私たちの暮らしの呪文、つぶやいては楽しんでいますよ」と英子さん。

本書では他にも沢山の優しい夫婦の思い出が、写真や言葉、イラストで紹介されています。
英子さんの深い愛情を感じられる一冊です。

文:ハチマル

『きのう、きょう、あした。』
著者:つばた英子、つばたしゅういち
出版社:主婦と生活社

きのう、きょう、あした。

きのう、きょう、あした。

89歳、はじめての一人暮らし。英子さんの新しい菜園生活が始まります。

この記事のライター

新刊JP 500文字書評

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新刊JP編集部の「500文字書評」チーム。

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