もう今さら聞けない…「IoT」って一体ナニ?
「IoT(Internet of Things)」という言葉が世間を賑わせて久しいが、この言葉の意味を具体的に説明できる人は意外に少ないのではないだろうか?
「“IoT”って“モノのインターネット”のことでしょ?」…確かにそうなのだが、それは直訳に過ぎず、正体は曖昧としたままだ。
そんな「IoT」について、説明している一冊を紹介したい。2016年に出版された『IoTとは何か 技術革新から社会核心へ』(坂村健著、KADOKAWA刊)だ。
著者の坂村氏は2000年代に話題になった「ユビキタス・コンピューティング」研究の先駆者として知られているが、実は「IoT」は、「ユビキタス・コンピューティング」の発展形と考えてよいものなのである。
本書では、そんなIoT研究の第一人者である著者が、「IoT」とはどのようなものを指すのか、「IoT」によって実現可能なことは何なのか、「IoT」の発展によって訪れる未来像などを語っている。また、2016年当時ではあるが、実社会における実証実験や事例も豊富に紹介されているので、具体的なイメージを持って「IoT」を理解することができるだろう。
■「IoT」は単なる「リモコン」ではない
「IoT=モノのインターネット」と聞くと、真っ先に頭に思い浮かぶのは、家庭内の機器を外出中でもスマホでコントロールすることや、AIスピーカーのようにインターネットにつながった家電などではないだろうか?
しかし、それでは効果範囲の広がった単なるリモコンに過ぎない。それらは、あくまで「IoT」でできることのほんの一部だ。
本書では、「IoT」の具体的な例として、ヒトの血液を原料とする医薬品「血液製剤」を管理するためのトレーサビリティの実証実験が紹介されている。
「トレーサビリティ」とは、ある製品の原料から消費されるまでの全工程を記録し、流通した後からでも追跡できるようにすることだ。血液製剤で言えば、誰の血から、いつ誰がどうやってつくり、どうやって運び、どこでどう使われたかの記録である。
この血液製剤のひとつひとつに個体識別のための電子タグを付け、倉庫の入り口や棚に読み取り装置を取り付ける。すると、入庫時に自動的に確認したり、棚に並んでいる状態で一括検品がなされたりするなど、インターネットを介して情報が記録されていく。
もちろん、読み取り装置を倉庫だけでなく、流通過程のトラックや営業所、病院などの使用先などに設置すれば、高い精度の管理が行われる。さらに、不適切な管理状態にあった製品を記録から判別して、出庫時や利用時に警告を発することも可能だ。
このように「IoT」の基礎は、「状況の認識」という点にある。モノ自体が、時間、場所、環境などを認識し、ビッグデータとして記録するのだ。
血液製剤の場合、情報のインフラは医療分野だけに限られてしまうが、これを応用し、分野を超えた横断的なモノ同士の「状況の認識」が集積されていくと、たとえば「グレープフルーツジュースと降圧剤」のような食べ合わせで問題が発生する医薬品と食品の判別を自動的に行うことなどができる。
異なる分野に話を移せば、砂粒大のチップをコンクリートに混ぜて施工された建築物ならば、内部の水の染み込みやpHの変化を検知し、建物全体の耐久性や時間経過による老朽化を測ることも可能だろう。
著者は、「IoT」は単にモノをインターネットで繋ぐという意味ではなく、“インターネットのように”会社や組織やビルや住宅や所有者の枠を超えてモノが繋がれるオープンなインフラを目指す言葉と捉えるべきであると述べている。
モノ自体が「状況を認識」して、それぞれに情報を送り出し、それらがオープンなインフラ上でつながることで、あらゆるものの管理や制御を行なう。それが「IoT」の本質だと言えるだろう。
■実社会に進出しつつある「IoT」化構想
IoTには、まだまだ構想段階だが興味深い事例は数多くある。ドイツの「インダストリー4.0」はその筆頭だろう。
「インダストリー4.0」構想は、工場のロボット化をひとつの工場という枠、さらには企業の枠を超えて、ドイツ全土に広げようというものだ。いわばドイツの産業全体を、有機的に自動連係するひとつの生態系のようにするというコンセプトだ。
製造される側のモノもバーコードや電子タグで自ら情報を持ち、製造機械とやりとりをする。まるで工場全体がひとつの有機体のように、どこかが故障すれば対応し、材料や部品が足りなくなればそれを感知して補充する――。これを一社の企業だけでなく国内の製造行全体で横断的に導入し、生産性や効率の向上を目指しているのだ。
実現すれば、まさに「インターネットのように会社や組織やビルや住宅や所有者の枠を超えてモノが繋がれている」状態だ。
日本ではドイツほど大胆な構想はないものの、国土交通省が「IoT」の技術によって新たなシステムを確立しようとしている。また、旅客機の整備現場、東京の外灯や公園内の遊具のメンテナンスに「IoT」の技術が活用されるなど、徐々に実社会に向けた取り組みが行われている。
本書を読めば、漠然としていた「IoT」というものが輪郭を帯びてくるだろう。話題の技術だけに一読して、その本質を理解しておきたいところである。
(ライター:大村佑介)