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正直は嘘に勝てるのか? 不動産業界の闇を暴露する超エグいマンガ

一人暮らしを始めるためのアパート。ローンを組んでの一戸建てやマンションの購入。人生において「不動産」と関わらずに生きていくことは難しい。

しかも、不動産の扱いは非日常のことなので、業者に任せたり、業者の言う通りにしたりすることがほとんどだろう。
だが、このマンガを読めば、不動産業者が100%客のことを考えて、物件や契約を勧めていると思えなくなってしまうかもしれない。

漫画雑誌『ビッグコミック』連載中で、待望の単行本第1巻が発売された『正直不動産』(大谷アキラ作、水野光博脚本、夏原武原案、小学館刊)だ。

原案の夏原氏は詐欺の実態を描いた『クロサギ』を手掛けた人物。様々な業界の裏事情に詳しい夏原氏がスポットを当てた不動産業界の裏側は「超エグい」の一言に尽きる。

物語の主人公は、人当たりの良さと嘘を厭わない口八丁でトップの成績を誇る営業・永瀬財地。本作では、不動産業界は「嘘をついてなんぼの世界」として描かれているが、永瀬はある出来事をきっかけに嘘がつけない体になり「正直営業」で奮闘していくことになるというストーリーだ。

では、不動産業界の裏側には一体どんな闇があるのだろうか。
その一部をこのマンガから紹介しよう。

■「敷金・礼金」をせしめる悪徳オーナーに気をつけろ

春から一人暮らしを始めるといるだろう。そんな人に、相場よりも安い物件があったら注意をしたいポイントがある。「敷金・礼金目当ての悪徳オーナー」の存在だ。

永瀬の後輩であり新人営業の月下咲良にとって初めての顧客になったのは、春から大学生になる女の子とその父親。一人暮らしのための物件を探しているという。彼女たちが希望する条件はとても予算内で見つけられるものではなく、「そんな物件あるわけない」というものだったが、必死に調べた月下はその条件に合致する不動産を見つける。

しかし、その物件には裏があった。キーワードは「交代多し」。
実はその物件のオーナーは、かなり問題のある人間だったのだ。

相場より安い値段で入居者を入れても、入居者が数ヶ月で出て行って、すぐまた次を入れれば、オーナーは敷金・礼金で十分儲けることができる。一年で3、4回も入れ替われば、安い家賃を補ってあまりある儲けとなるだろう。

しかし、そんなに簡単に入居者が出ていくわけがない。
そこで「敷金・礼金目当ての悪徳オーナー」は若い女性ばかりを入居させて、ストーカーを装い、出ていくように仕向けるというのだ。

また、敷金・礼金目当ての悪徳オーナーかどうかを見極めるもう一つのポイントは、「悪趣味な玄関のカーペット」や「ボロボロのカーテン」があるかどうかであると永瀬は語る。 賃貸物件には退去する時に「原状復帰」が必要であることが契約書に記されていることが多い。
もし、店子(借家人)がそれらを「いらない」「汚い」と勝手に破棄したら、オーナーは「原状復帰ができない」と主張することができる。その瞬間、敷金は戻らなくなってしまうという。

月下は「オーナーは悪い人には見えませんでした」と食い下がるが、永瀬は「悪い人が悪い人に見せるわけないだろうが」と一蹴する。

 ◇

不動産業界には「千三つ(せんみつ)」という言葉がある。一般には「家が欲しいという話が千件あっても、制約に至るのは三件」という意味だが、主人公の永瀬はこの言葉にはもう一つの意味があると語る。それは「千の言葉の中に真実はたった三つしかない」という不動産営業の裏常識だ。

そんな業界の中で、嘘がつけなくなった永瀬はどのようにして生き抜いていくのだろうか。そして、難題を発想の転換で乗り切っていく後輩・月下の活躍にもワクワクする。

本書はあくまでマンガなので、多少の誇張はあるはず。しかし、少なからず存在するであろう「不動産業界の真実」を垣間見ることのできる作品である。

(ライター/大村佑介)

正直不動産 1

正直不動産 1

不動産業界の闇を曝け出す皮肉喜劇!

この記事のライター

大村佑介

大村佑介

1979年生まれ。未年・牡羊座のライター。演劇脚本、映像シナリオを学んだ後、ビジネス書籍のライターとして活動。好きなジャンルは行動経済学、心理学、雑学。無類の猫好きだが、犬によく懐かれる。

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