だれかに話したくなる本の話

【「本が好き!」レビュー】『壜の中の手記』ジェラルド カーシュ著

提供: 本が好き!

私、自分のプロフィールにも書いているとおり、幻想文学大好きなんですが、どうもここのところ、「これは!」という幻想作品になかなか巡り合えず、やや欲求不満気味だったのです。
ところが、何気なく読んでみた本書は大当たりでした。
大変面白く、よくできている幻想奇譚短編集で、大満足の一冊でした。
それでは、いつもの通り、収録作品の中から何作かをご紹介。

〇 豚の島の女王
ある船長が、無人島で人間のものとは思えないいくつかの骨を発見し、これは世紀の大発見ではないかと小躍りするのですが、実は……というお話です。
発見された骨は人間の骨に違いは無く、ただ、それはサーカスのフリーク・ショウに出演していた奇形者の骨だったのです。
小人の2人組の骨、巨人症にかかった大変醜かった男の骨、そして、四肢を持たない美しく聡明だった女性の骨。
彼らが無人島にたどり着き、そこで死んで骨として残った悲しい物語です。

〇 黄金の河
あるバーで、無銭飲食をしようとした男を助けてやったところ、その男から『ティクトク』という人間の脳の形をした不思議な木の実を使って莫大な財産を築いたものの、欲をかき過ぎたためにすべてを失ってしまったという奇妙な話を聞かされる男の物語です。
男は、別れ際に助けてくれたお礼だと言って小さな金の欠片をくれるのですが、それを換金しようと入った最初の質屋では、これは金でも何でもない真っ赤な偽物だと言われてしまいます。
ところが……。

〇 ねじくれた骨
ジャングルの奥の過酷な土地で無期懲役刑に服さなければならなくなった男の物語です。
彼は強盗殺人をはたらいたということで無期懲役刑に処せられたのですが、草を編んで帽子を作る技術を持っていたため、過酷な労働から外されて帽子作りをさせてもらえることになりました。
帽子は高く売れたので刑務所長もごきげんで、わずかですが金ももらえるようになりました。
男はいつか脱獄する決意で、その金を隠してため続け、また、ジャングルに住む現地人を助けてやったことから手に入れた、ジャングルを無事に通過できるというお守りも隠し、脱獄に備えていたのです。
ところが、ある日、一人の受刑者と知り合い、自分の数奇な運命に驚愕するのです。
男は、せっせとためた脱獄用の金とお守りをその男にくれてやろうとするのですが……それは何故?
そして、その結末は?

〇 壜の中の手記
現地の土産物屋から何気なく買った遺物だという不思議な壜を巡る物語です。
奇妙な形をした壜で、一体何に使われたのか不明だったのですが、うっかり割ってしまったところ、中から細かい字が書かれた紙が出てきたのです。
大英博物館に鑑定を依頼したところ、「もし、これが本物だとしたら大変な物です」と言われます。
なんと、紙に文字を書いたのはアンブローズ・ビアス(あの『悪魔の辞書』を書いた人です)本人かもしれないと言うのです。
そして、そこに書かれていた奇妙な物語とは……。
アンブローズ・ビアスは、71歳の頃失踪して行方不明になり、その行方はいまだに謎とされていて、アメリカ文学史上最も有名な失踪事件と言われているのですが、そのビアスの伝奇をモチーフにした作品です。

私は、本の置き場所問題があるので(+転勤族で引っ越しが多いことも一因)、本は基本的には図書館で借りてくるのですが、借りた本が気に入った場合には買うことがあります。
本書についても、しっかりネット書店に注文して入手してしまいました。
それだけ面白かったのです。

(レビュー:ef

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本が好き!
『壜の中の手記』

壜の中の手記

ビアスの失踪という米文学史上最大のミステリを題材に不気味なファンタジーを創造、エドガー賞に輝いた「壜の中の手記」、無人島で発見された奇怪な白骨に秘められた哀しくも恐ろしい愛の物語「豚の島の女王」など途方もない奇想とねじれたユーモアに満ちた語り/騙りの天才カーシュの異色短篇集。「凍れる美女」「壁のない部屋で」の新訳2篇、「狂える花」ロング・ヴァージョンを収録した新編集版。

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