【「本が好き!」レビュー】『江戸の糞尿学』 永井義男著
提供: 本が好き!江戸時代の屎尿の処理はどうなっていたのかについて論じた本です。
江戸は世界的な大都市だったわけで、人が集まればその屎尿処理は大問題になってきます。
同時代の世界的大都市だったロンドンやパリではほぼ垂れ流し状態だったのに対して江戸はどうだったのか?を書いています。
基本的な論旨は、日本では下肥えとして畑に人糞を利用していたため、大都市江戸の屎尿を買い取り、田園地帯まで運搬して農家に売り、肥料として利用するというシステムが確立していたというもの。
屎尿の収集、運搬、販売というのが経済システムとしても成り立っていたというわけですね。
ですから、屎尿は汚いとか臭いとかそういうマイナスの感覚は現在ほどにはなかったのだということです。
それはそれでなかなかエコなシステムだったのだろうとは思うのですが、現在その状況を読むと、いやこれがもうなんだか匂ってくるようであります。
また、このような方法による問題もないわけではなかったようです。
それが寄生虫問題。
人糞を施肥したために野菜などに寄生虫の卵が付着し、それを食するため、当時の人々のかなりの割合が寄生虫を持っていたということです。
時代劇等で、「持病の癪が……」などと言ってうずくまる姿が出てきたりしますが、あれは体内で増え過ぎた寄生虫のために痛みを発しているのだとか。
『癪』ってなんだろうと不思議に思っていたため、そういうことだったのかと知りました。
体内で寄生虫が増え過ぎると口から回虫が出てくるという辺りはぞぞぞ……でした(結構普通にあった光景だったそうですよ)。
まあ、現代ではダイエット等のために故意に寄生虫を飼っている方もいるそうですけれど……。
今では無くなりましたが、昔は『ぎょうちゅう検査』と言って、肛門にシールを貼って学校に提出するなんていうのもあった時代でした(人糞利用の低下とこのような検査によって寄生虫はほぼ撲滅されたのだとか)。
今では屎尿の収集、運搬なんていうのはほぼ目にしなくなったわけですが、私の子供の頃にはまだバキューム・カーは走っていましたからね~。
とはいっても、どうやらその時代には既に農村地帯でも人糞を肥料として使うことは少なくなり、単に屎尿を処理するために汲み取り、多くは東京湾などに捨てていたらしいのです。
まだ下水システムや屎尿の処理場が現在のように整っていなかったのですね~。
ただ、大震災時に現在のシステムが稼働しなくなる場合に備えて、現在もバキューム・カーを備えている自治体もあるのだそうですよ。
海に屎尿を投棄すると海が黄色く染まり、カモメなどがすぐにたかって来たのだとか。
江戸前の魚はおいしいと言われたのは、実は魚が屎尿を食べていたため、脂が乗っていたからだというのです。
東京湾で採れた魚をさばいたら腹の中から魚が食べたばかりの人糞が形を保ったまま出てくるなんていうこともあったのだとか。
うわぁ……。
東京の屎尿処理のために鉄道が使われたこともあったそうで、昭和19年頃の話だそうですが、西武鉄道は高田馬場-東村山-所沢-本川越を結び、武蔵野鉄道は池袋-飯能を結んで屎尿を運搬していたのだそうです(昭和20年に西武鉄道と武蔵野鉄道は合併して新たに西武鉄道になったそうです)。
そうか、あの路線はそのために作られたのか。
今となっては消えてしまった屎尿の収集、運搬、利用の実情について語った一冊でした。
著者は、いつかまた屎尿が何かの形で利用される時代がくるかもしれず、そういう技術が生まれた暁には江戸時代のように経済システムとしても確立することになるのではないかと結んでいますが、そういう辺りに着目する人も出てくるんでしょうかね?
読了時間メーター
□□□ 普通(1~2日あれば読める)
(レビュー:ef)
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