【「本が好き!」レビュー】『はじめての暗渠散歩: 水のない水辺をあるく』本田創、高山英男、吉村生、三土たつお
提供: 本が好き!世の中には、暗渠をこよなく愛する〈暗渠マニア〉がいる。彼らは日々、暗渠を求めて街を歩き、暗渠に地理・歴史など多角的な観点からアプローチし、知りつくそう語りつくそうと日々奮闘している。そして、その魅力に気づいていない人たちに、『暗渠』の凄さを伝えようと活動している。
私は暗渠に関しては素人だ。もちろん、暗渠の存在することは知っている。街を歩いていて見かけたこともある。たぶん、自宅近くや職場近くにもあるはずだ。
でも、普通はその程度だ。暗渠は日常に溶け込むように存在しているのであり、日々の生活で暗渠を意識することはほぼない。なので、〈暗渠マニア〉たちが暗渠にハマっているのを見ても、
"「いったい暗渠の何が面白いの?」"
"「暗渠のどういうところに惹かれるの?」"
と疑問を感じるばかりだった。
本書は、4人の〈暗渠マニア〉が暗渠の魅力を初心者に伝えるために記した暗渠歩きの入門書である。なぜ暗渠に心を惹かれるのか。暗渠の魅力を、あるときは学術的に、あるときは論理的に、あるときは感動的に、あるときは情緒的に、4人の〈暗渠マニア〉がそれぞれのアプローチで語っている。
本田創さん、高山英男さんは、暗渠を様々な角度から論理的にアプローチする。本田さんのアプローチは、『暗渠』を構成する様々な要素を多角的に整理し、そこから『暗渠』を愉しむためのポイントを導き出す。まさに「暗渠学」である。
同じ論理的なアプローチでも、高山さんの場合はさらにロジカルだ。街なかで暗渠を見つけるための「暗渠サイン」となる要素を細かく洗い出し、分類整理し定義づけをする。チャートを利用した可視化などデータ分析アプローチになっている。
一方、吉村生さんや三土たつおさんは、本田さんや高山さんとは異なり「まずは暗渠を愉しむ」ところからアプローチしている。街を歩き、暗渠を実際に歩くことで、その暗渠の周囲に何があるのか、それは暗渠とどう関係があるのかを想像して愉しんでいると感じる。暗渠そのものだけを愉しむというよりは、暗渠を中心とする街の風景を愉しんでいるという印象を受けた。
4人の〈暗渠マニア〉それぞれのアプローチは、それだけ暗渠が多角的に愉しめることを示している。本書は、初心者が暗渠を愉しむためのガイドブックとしての位置づけがあるので、書かれている内容はまだまだ暗渠の魅力の入口に過ぎないのだと思う。だから、本書を読んで暗渠にちょっと興味が出てきたら、次は4人のマニアの中で自分が共感したマニアのアプローチを真似て、自分なりの暗渠歩きにチェレンジしてみるのがいいのだろう。
暗渠の愉しみ方、面白いと感じるポイント、魅力を感じるポイントは人それぞれである。本書は、暗渠を愉しむためのアプローチが多数あることを示している。「はじめての暗渠散歩」と題するように、本書は初心者が暗渠の魅力を知るためのはじめの一歩となる本だ。4人の〈暗渠マニア〉がそれぞれに異なる暗渠の愉しみ方を示してくれている。まず、自分がどのアプローチに共感できるかを考えてみよう。何かひとつ共感できるポイントがあれば、そこから〈暗渠マニア〉への道が開かれるだろう。
とりあえず私は、吉村さん、三土さんスタイルのアプローチで、これから街を歩く時に暗渠の存在を意識してみようかと思う。
(レビュー:タカラ~ム)
・書評提供:書評でつながる読書コミュニティ「本が好き!」