仕掛け人に聞く『漫画 君たちはどう生きるか』大ヒットへの道のり
■インパクトの強い表紙はいかにして生まれたのか?
『漫画 君たちはどう生きるか』の漫画化を担当したのは羽賀翔一氏という若手漫画家だ。表紙のこちらを睨みつけるようなコペル君の目は、書店のどこに置かれても気付いてしまう。羽賀氏の起用はどのように進められたのだろうか?
「漫画化したいと思ったのはいいけれど、実はマガジンハウスは漫画を作っていないんです。そこで、講談社にいた原田隆という編集者に相談したら、『それは面白い!』と興味を持ってくれて、元講談社で今はコルクを率いている佐渡島庸平さんのところに、羽賀君という良い漫画家がいると紹介してもらったんです。
そこで佐渡島さんと相談をして、担当編集として柿内芳文さんがつくことになり、柿内・羽賀チームで制作を始めました」(鉄尾氏)
しかし、制作は難航した。2015年に企画が立ちあがってから、出版までに2年以上の歳月を費やしている。
「実はだいぶ遅れましたね。煮詰まりかえっていたというか(笑)。戦前の設定を現代にかえたほうがいいのではないかとかそういう話もありました。
構成にもこだわっている部分があって、例えば全てを漫画にしているわけではなく、叔父さんがコペル君につづったノートの部分はそのままテキストで掲載しています。
漫画だけだと分かりやすさが格段に上がります。でも、全部漫画にすると、読み飛ばされてしまう可能性がある。一方で、テキストが入ると、読むことのハードルが高くなるのではないか。そういう議論もありました」(鉄尾氏)
素朴で、力強い。鉄尾氏は羽賀氏の絵柄を見てそう話す。そして、インパクトのあるコペル君が前面に押し出された漫画版の表紙が生まれる。
「装丁はデザイナーの川名潤さんにお願いをしました。はじめ、マンガの表紙の絵が出来てきたとき『どこにタイトルを入れるの?』という想いと、このコペル君は出来る限り大きく使わないともったいない。そのせめぎ合いはありましたが、最終的には素晴らしい装丁になったと思います。
また、新装版と漫画版を同じサイズで刊行しようという話もありましたが、そうなると新装版が大き過ぎるのではという意見が出て、サイズは別々にしました。コペル君の絵も寄りと引きでペア感を出して、一緒に書店で並べていただくことを意識しましたね」(鉄尾氏)
テレビ番組での紹介で認知度が飛躍的に上昇し、2017年後半を代表する本になろうとしつつある『漫画 君たちはどう生きるか』だが、今後も積極的にプロモーションを展開する予定だ。
「この本は、読者の感想を聞きたくなる本なんです。だから、多くの人に読んでもらって、感想を聞きたい。今でも本当に幅広い年齢層から感想が届いているのですごく嬉しいことですよね」(鉄尾氏)
そして最後に、次のように語った。
「心残りは、羽賀さんを紹介してくれた講談社の原田さんにこの本を見せられなかったことかな。ちょうど1年くらい前に亡くなってしまったんですよ。この本の第二の生みの親は誰かと聞かれれば、間違いなく原田さんでしょうね。まあ、でも今頃は天国で『俺がこの本を作ったんだ』とみんなに宣伝してくれているんじゃないかな(笑)」(鉄尾氏)
取材・文:金井元貴(新刊JP編集部)