だれかに話したくなる本の話

【「本が好き!」レビュー】『職業としての小説家』村上春樹著

提供: 本が好き!

村上春樹氏の本はある時期をさかいに読まなくなった。
特に嫌いになったというわけでもないのにごく自然に読まなくなった。
恐らく当時の自分の状況にもっとフィットした作品に
たくさん出会えたからじゃないかと思う。

村上春樹という名がどんどん大きくなり、騒がれ、称賛され、
どこか遠い世界の作家になったのだなぁ・・・と感じたのも
その頃だったと思う。

しばらく遠ざかっていた作家との意外な再会を果たす機会を
もらえたのが本サイトの企画である棚マル。

たけぞうさんが推薦なさらなかったら、
もしかしたら私は村上さんの本を手に取ることがまたしばらくなかったかもしれない。
そういう意味でもなかなかいい再会を果たせたなぁという気持ちです。

作家デビューから現在に至るまでのエピソードの数々から
村上春樹氏の人となりを十分知ることが出来る一冊であった。

とにかく書くことに関しての姿勢は「職人」そのもの。
ゲラが真っ黒になるほど何度も書き直し、机に並べたHBの10本の
鉛筆がどんどん短くなるという徹底ぶり。
それに喜びを感じるというから根っから書くことが好きな
ちょっとした変態さんなのでしょうな。

凡人には真似できないものがそこにあるのだが、書き直したところは
必ず前より良くなっているという話は、文章を書いている人たちには
ピンとくるものがあるのではないだろうか。

1日5時間机に向かい、運動と適度な休息を取り、体調管理をきちんと行いながら
文筆活動するなど、本質的にとても真面目な方なのでしょう。

とにかく書くことに集中し、書くことだけに専念したい。
作品に対していろんな批判は出るけれど、読みたい人が読んでくれればそれでいい。

ファンとの交流もほとんどないらしいが、彼の中ではファンとは
根っこが繋がっている感覚があり、そういうことを大事にして作品を作っている。
ファンと根っこが繋がっているという話はとても素敵だなぁと思う。

わたしは村上さんのことをクールでプライドの高い方だとずっと思っていた。
もちろん本書を読んでそう感じる部分もあるのですが、なんというか、
純粋に書くことが好きで、とても真摯に作品に取り組んでいる方なのだ
ということが解った。

わたしが村上作品を気軽に読んでいたのは初期のもの。
夜中のキッチンで執筆されていたという作品たちだ。

それ以降読まなくなったのは、もしかしたら、村上さんが
本腰を入れて取り組んだ作品が、当時の私には息苦しく重く
ちょっと面倒に感じたからなのかもしれない。

こんな風に作家の歩みと自分の読書の歩みが重なるような
感覚や気づきがあったのも面白かった。
疎遠になった作家との距離の謎が紐解けたような気がした。

あれから数十年。
贅肉を排除し、さらに鍛え抜かれた村上作品はどう変わっているのだろうか?
私自身、まずはこれまでインプットされた村上さんに関する様々な固定観念を
そぎ落とし、もう一度まっさらな気持ちで村上作品を読んでみたいと思えた。

最後に、本書はちょっとしたサロンで直接村上さんから
お話を聞いているような感覚で読めます。

誰にもどこか必ず響いて来る箇所がある本だと思います。
ファンじゃないとなかなか手に取らないかもしれませんが、
私がこの本を手に取ったように、誰かもまたこの本を手にし、
村上春樹作品との再会を果たせる機会になればいいなと思います。

余談ですが、春樹ファンの男女比率は同じくらいらしいが、
特に女性は美人が多いとのこと。それって本当なの?
検証してみたいものです。

(レビュー:Kurara

・書評提供:書評でつながる読書コミュニティ「本が好き!」

本が好き!
『職業としての小説家』

職業としての小説家

「村上春樹」は小説家としてどう歩んで来たか―作家デビューから現在までの軌跡、長編小説の書き方や文章を書き続ける姿勢などを、著者自身が豊富な具体例とエピソードを交えて語り尽くす。文学賞についてオリジナリティーとは何か、学校について、海外で翻訳されること、河合隼雄氏との出会い…読者の心の壁に新しい窓を開け、新鮮な空気を吹き込んできた作家の稀有な一冊。

この記事のライター

本が好き!

本が好き!

本が好き!は、無料登録で書評を投稿したり、本についてコメントを言い合って盛り上がれるコミュニティです。
本のプレゼントも実施中。あなたも本好き仲間に加わりませんか?

無料登録はこちら→http://www.honzuki.jp/user/user_entry/add.html

このライターの他の記事