【「本が好き!」レビュー】『山人たちの賦 山暮らしに人生を賭けた男たちのドラマ』甲斐崎圭著
提供: 本が好き!BookPort大崎ブライトタワー店さんにて開催中の、本が好き!棚マルフェア。先日にはレビュアーの方が集ったオフ会も開催されるなど大盛況をみせています。わたくしもちょわさんがご推薦された『山人たちの賦』のレビューをアップします。また哀愁亭味楽さんが主催する棚マル応援企画!「みんなの推薦本リストを制覇しよう!」の参加レビューでもあります。
本書は、熊撃ち、ボッカ、山小屋主人、イワナの養殖師、修験者、木地師、釣り師など、国内から消滅しつつある山人の職業に焦点をあて、その仕事ぶりや実態に迫った成果をまとめたルポルタージュである。山に魅せられた男たちの苛烈な反省と仕事ぶりが、淡々とした筆致で綴られている。
私がとりわけ魅せられたのは、彼らの自然との付き合い方である。本書には"山は寡黙であるが、自らが裏切れば、決して許してはくれないのだという。“山の現実”を彼らの生きざまは鮮明に物語っていた"と著者が述べるような、山人の独自の秩序や価値観が各章に紹介されている。獲物を山神から授けられたとするマタギの「山中他界観」であり、先住する動物への「隣人感覚」であり、その他いっさいの自然観も然りだ。
経験上、こうした価値観をそなえる方は獣害の問題をひとつとっても、柔軟な考え方で事に対処する人が多いような印象をうける。一般には、作物を荒らす動物を獣害とすることで、被害を最小限に抑える電気柵やネットを周囲に巡らすことが常識だが、両者を区別することなく先住者への配慮から、動物に与える作物をあらかじめ余分に作っている方もいる。
私の移住した地域(下記の関連本を参照)では、サル、イノシシ、(カモシカ、クマも出没)などの獣害に頻繁に見舞われることから、作物の周囲を防護柵で囲む方が多数を占めていた(実は私も一年目はそうしたのだが……。) よりハッキリと目の敵にして「自然との共生は無理やな!」と口にした方もおられた。その是非はともかく、いずれにも共通していえるのは、人間も動物たちも同じ環境で必死に生きている事実に変わりないことだ。
私が地域の実情にすべて通じていたわけではないし、触れられなかった、知ることのできなかった事柄も多くあるはずだ。ただ、人々にそなわっていたはずの自然の価値観が、人口減少や時代の変化によって消滅していったとするなら……。本書にある"山の変容は山で生きる人たちの人生の変容を映し出すものである"とのことばが胸に響く。本を閉じると、眼の先で中央アルプスの山並みが浮かんでは消えた……。
地域関連本
ヤマケイ文庫『定本 日本の秘境』
(レビュー:mono sashi)
・書評提供:書評でつながる読書コミュニティ「本が好き!」