【「本が好き!」レビュー】『地方創生大全』木下斉著
提供: 本が好き!私は地方自治体の中の人です。地方創生というと、「田舎の自治体のやること」と思われていますが、
東京近郊の自治体でも地域創生推進交付金やら地域創生活力交付金を使っている自治体は数多くあります。そして、私の友人たちもそんな交付金に振り回されています。
著者は、早稲田大学高等学院(通称「早高院」)在学中に早稲田商店街の環境まちづくり(スーパー稲毛屋の安井潤一郎さん、懐かしいなぁ)に参加し地域した後、熊本城東マネジメントを起業し事業展開で自ら出資した事業に携わっている実体験を基に地域創生の在り方について論じています。
地方自治体の中の私から見ても非常な共感と賛同を覚えます。
そもそも役所は4月から3月までの1会計年度で予算が作られます。それは国も都道府県も市町村も同じです。大きな工事費や委託費など複数年にまたがるものもありますが、あくまで例外。結果的に国の交付金も基本は3月までに実績挙げて報告書をあげなければなりません。
首長たちは、市町村財政には影響がない(腹が痛まない)ので、「やれ」という指示を出します。
「やれ」と言われても短期間でできないので、当然地元とは関係のない=責任のない「コンサルタント会社」や「広告代理店」が絡んできます。また、短期間であるが故にこれまでの施策との調整ができないことも多く、屋上屋(おくじょうおく)のブランド戦略とか傍から見ていて「何やってんのかなぁ」と思うことばかり。
地域ブランドが1年ぐらいでできるなら苦労なんかしません。そもそも市町村の範囲なんてたかが知れています。隣の自治体の似たようなものと何が違うの?というものばかりです。
この手の部署には精鋭が配置されていますが、たった1年で結果らやPDCAを求められ、外部(議員・関係団体)からのありがたい「ご意見」に振り回され、ヘトヘトになっている(時にメンタルをやられる)姿は痛々しいかぎりです。
仮にうまくいき始めても役所には人事異動がつきものです。いくら引継書をつくったところで、限界はあります。
こんな苦労をして地域ブランドは確立されるかといえば、最初から失敗・撤退ラインを設定しない(無責任)計画行政のお役所が旗を振ったところでたかが知れています。マスコミとかはブランドを立ち上げると最初は取り上げてくれますが、そのあと、どうなったかなんて「大きな失敗」にならなければ
見向きもされません。小さな失敗は翌年度ぐらいは槍玉にあがりますが、知らない間に税金と職員の人件費と労力は闇に葬られます。失敗の経験は蓄積されません。
一方、大きな失敗になれば、大きな失敗の責任を取りたくないので、税金が逐次投入されていきます。このあたりになると、もはや第二次世界大戦の日本軍の失敗そのものの構図です。結局、儲かるのはコンサルと広告代理店ぐらいなのでしょうか。
著者は、ふるさと納税も批判しています。私もふるさと納税を利用していますが、値段の高い「のどぐろの干物」あたりは税金が食べ物に代わるから寄付しますが、自分で買うかと言われれば、迷わず「アジの干物」を買います。この構図は在りし日の「1000円高速」とそっくりです。もし、ふるさと納税の仕組みが変わったら、この制度を見込んで事業展開した地方の企業では倒産するところもでてくるでしょう。
町の魅力を発信できるのは、税金のような「匿名性の高いお金」ではなく、自己資金や融資を受けたお金で運営する単年度予算でもなく、個人事業主のように責任者がはっきりしている地道な活動の積み重ねだという著者の主張はもっともです。
役所はそんな事業主のチャレンジを後ろから押してあげる(法制度を整える)ぐらいでちょうどいいんです。地域を紹介する雑誌をみても、役所主導のものは特集記事にはなりやすいですが、訪れてみたいもののほとんどは個人のお店です。路地をつぶして再開発で作ったビルやショッピングセンターがチェーン店ばかりで面白くない=失敗なのもうなずけます。
あまりに素晴らしい本なので、長い書評になってしまいました。まだまだ共感部分はたくさんあるのですが、長くなるのでやめておきます。
とにかく、すべての首長と議員が読むべき1冊と強く思います。
(レビュー:祐太郎)
・書評提供:書評でつながる読書コミュニティ「本が好き!」