【「本が好き!」レビュー】『江戸川乱歩短篇集』江戸川乱歩著
提供: 本が好き!どうやら、ここでも「ビブリア古書堂」シリーズは好き嫌いが分かれているようで、そのレビューを拝見するのも楽しみの一つ。また、興味深い本に巡り合えることも事実で、先日紹介したクラクラ日記もこのシリーズが無ければ知る由もなかったでしょう。
さて「ビブリア古書堂の事件手帖4」は全編江戸川乱歩の膨大なコレクションを中心に展開されていました。彼の様々な作品が紹介されているのですが、そのうちでも特に気になった「押絵と旅する男」を読みたくて、この短編集を買ってみました。
結果は吉と出て、「二銭銅貨」「D坂殺人事件」「屋根裏の散歩者」をはじめとする初期の推理小説の傑作や、「白昼夢」「人間椅子」「鏡地獄」などの乱歩らしい怪奇幻想作品も楽しめる玉手箱のような短編集でした。
日本の推理小説の嚆矢ともいえる「二銭銅貨」や、明智小五郎探偵の登場する「D坂殺人事件」「心理試験」「屋根裏の散歩者」などは、明治以来の日本文学が追求してきた人間心理の分析を犯罪捜査に応用するというコロンブスの卵的アイデアと、ポーやドイルなどの海外の推理小説に関する膨大な知識が結実した傑作群です。(と、あえて私が論評する必要もないでしょうけれど)
明智探偵が登場しない作品としては「二銭銅貨」と並んで「お伊勢登場」が面白かったです。浮気性の妻お伊勢がふとした偶然から夫殺害の完全犯罪を成し遂げてしまう物語なのですが、乱歩はこれを連作として明智小五郎と対決させたい思惑があったらしいです。それがかなうことがなかったのが残念な気がします。
さて、本命の「押絵と旅する男」、確かに傑作でした。内容を語らずにどうレビューしたものかと悩んでしまいますが、何のことはない、解説の千葉俊二氏の的確な文章がこの小説のすべてを物語っています。他人の褌で申し訳ありませんが引用させていただきます。
遠眼鏡を逆に覗くことで縮小された小世界に封じられ、永遠の愛そのものの中に生きるこの物語は、たしかに読むものに不思議な懐かしさと同時に戦慄するような恐怖感をよびおこさせる傑作である。浅草趣味、覗きカラクリ、人形愛などの乱歩の趣味がこの一篇に凝縮されてみごとな出来栄えを示している。
これに限らず、千葉俊二氏の「乱歩登場」という解説は、久々に見た「これぞ解説だ」という傑出した文章でした。この解説が本書の価値をより高めていると言って過言ではありません。このあたり、さすが岩波文庫ですね。
森鴎外の「渋江抽斎」、夏目漱石の「それから」なども引用し、明治文学からの流れで江戸川乱歩を的確に捉えたその技量には脱帽でした。
というわけで、ビブリア古書堂からの流れでこの短編小説群を読んでよかったと思います。ありがとう、栞子さん。いや、三上延さん。
(レビュー:Yasuhiro)
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