【「本が好き!」レビュー】『「南京事件」を調査せよ』清水潔著
提供: 本が好き!「知ろうとしないことは罪。」著者の文章に背中を押されるような気持ちで読み始めました。南京大虐殺という言葉は知っていても、それが実際にどういった事件だったのかまたなぜ故そんなことがおこったのかあまり関心がなかったというのが正直なところです。
この本は、2015年10月4日NNNドキュメント「南京事件 兵士たちの遺言」という番組制作のため事件記者である著者清水潔氏が南京事件について地道に調査した史実です。調査を始めた当初、南京の町を歩き「南京大虐殺記念館」で見た油絵。数多くの死体のそばに立っている日本人が日本刀を布で拭っている残酷な様子にウンザリした著者でしたが、調査を進めていく中で次第にその絵が大袈裟でもなく事実を描いたものと判断していくのです。
学校では習うことのない戦争中の話ですが、実際には日本人はかなり残虐なことを行ってきたということは出版されている数々の本でも明らかです。私が最初に知ったのは九州医大における米兵捕虜の人体実験でした。確か遠藤周作氏の「海と毒薬」で読んだと記憶しています。その話もこの本で触れていますが、それ以上に残酷な虐殺を中国で実際に日本人が犯しています。
清水氏がインタビューした中国人留学生から、日本の軍国主義が起こした二つの虐殺として「中国では、南京虐殺と旅順虐殺の二つを学校で学ぶのです。」という話を聞いたのです。旅順虐殺は、日清戦争時のことですが戦争が起これば、人は鬼にも悪魔にもなるのかもしれません。あまりにも残虐な史実に愕然としましたが、知ろうとしなければ全く知ることのなかったことです。第二次世界大戦中、日本の若き兵士が特攻隊として人間もろとも敵艦に突っ込むということも非常に残酷な話ですし、回転という人間魚雷も悲劇的な命令です。 先日、初めて靖国神社を訪れたとき遊就館で展示を見学しました。戦争中に使用したと思われる戦闘機や回転の模型、ヘルメット等々数々の展示品が陳列されている奥の部屋には若き兵士たちの写真や遺品、手紙などがビッシリと展示されていました。ジックリと見ていたら絶対に号泣してしまうと思い、胸が痛くなるのをこらえつつその場を後にしました。戦争は二度と起こしてはいけないと言いながらも、実際に学校教育の中では戦争について教えられることはほとんどありません。中国では、ちゃんと教えられるのに、日本との落差が大きければそれだけ相手を理解することも難しいのではと思います。
後に海軍中尉となる人物が、特攻隊創始者のひとりという記述がありました。「国民全部が特攻精神を発揮すれば、たとえ負けたとしても日本は亡びない」などと主張したとか。国民死すとも国家は残る。という思想のどこに「邦人保護」の精神が共存できるというのか。という著者の言葉に心から共感しました。南京事件だけでなく、満州鉄道など一連の戦前の出来事について調査されたこともこの一冊に綴られています。これまで、よくわからなかった満州鉄道についてもそういう組織だったのかと納得がいきました。
情報が操作されることは、過去にも実際にあったことですが現在においてもおそらく何かしらあるのだと思います。権力とは距離を置くというアメリカのジャーナリズムの姿勢、果たして日本のメディアから伝わる情報は?と鵜呑みにすることなく冷静に見聞きし、本を読み賢く生きたいものです。
(レビュー:morimori)
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