【「本が好き!」レビュー】『人類の悲しみと対峙する ダークツーリズム入門ガイド』 いろは出版
提供: 本が好き!負の世界遺産と呼ばれる人類が間違いを犯した罪業を二度と起こさないようにする遺構や場所がある。その場に立てば郷愁などとは生易しいものではない胸の痛みを覚える場所だ。世界遺産に認定されているものではアウシュヴィッツ=ビルケナウ強制収容所(ポーランド)や広島の原爆ドームがある。世界遺産認定はまだわずか19だが、宗教、戦争、迫害、破壊、虐殺などにより人が人を殺した場所や人を物として扱った奴隷の館、壊された遺跡やかつて栄華を極めた廃墟、スラム街などを旅行情報とモデルプランを明示して36ヶ所を紹介しているのがダークツーリズムガイドである。
誰もが知っている場所でいえば、ベルリンの壁(ドイツ)や911メモリアルミュージアム(アメリカ)、チェルノブイリ原子力発電所あたり。日本は5ヶ所を掲載。海底炭鉱の端島(軍艦島)、毒ガス製造島の大久野島、広島原爆ドーム、沖縄の野戦病院跡ヌヌマチガマ、そして福島第一原子力発電所だ。36ヶ所の内いくつか抜粋して紹介します。
◆ゴレ島の奴隷の館(セネガル)
1776年にオランダ人によって建てられた奴隷の館。人を人として扱わない非道の場所。奴隷貿易が盛んだったのは18世紀。アフリカ人に武器を売り他部族と戦わせ、武器を持たないアフリカ人を連行する。狭い部屋に男、女、子供に分けられひしめき合うように押し込まれていたという。男はA級品で売れるよう60キロ以上に太らされた。人間を家畜のように扱った。ゴレ島の奴隷の館を前に私たちは何を学べるだろうか。
◆コレヒドール島(フィリピン)
太平洋戦争の爪痕が残るこの島は18世紀にスペインの統治下におかれてから次々と他国の植民地となり耐え忍んできた。米西戦争後アメリカの統治下に入り、太平洋戦争で日本が掌握。翌年とてつもない戦力を連れてアメリカはコレヒドール島を奪還した。フィリピンは自国でありながら、見ているしかなかった島であった。
◆ジェフリー鉱山(カナダ)
ここは世界でも有数のアスベスト生産量を誇った鉱山だ。好景気に伴い安価なアスベストはよく売れた。1970年代アスベストの健康被害が指摘され訴訟が続出、アスベストの国際規制が1980年代にしかれ、需要は落ちた。しかし、カナダはアジアにアスベストを売り続けた。2011年に世界から批判され、130年の幕を閉じた。つい最近までアジアの発展途上国を中心に使われ続けたのだ。
◆大久野島(日本)
野生化したウサギが大量にいることで知られ、国内ばかりか海外からも観光客が集まる大久野島は戦時中、化学兵器を作る島だったことをご存じだろうか。国際法では毒ガスの使用が禁止されていたが、日本軍はここでひっそりと作っていた。毒ガスの影響で周辺の魚は弱り、「魚を食べてはいけない」と教えられていた。周囲4キロの瀬戸内海の小さな島は地図から消され、多くの作業員が犠牲となった。
◆ムランビ虐殺記念館(ルワンダ)
一番旅行費用がかかるのはルワンダのムランビ虐殺記念館だ。同じ言語、同じ文化を共有しながら生きてきた二つの民族がヨーロッパの介入により対立関係に。100日間で80万人以上が殺された。記念館にはおびただしい数のミイラ化した遺体や頭蓋骨、衣服を展示している。"なぜ人は、そこまで残酷になれたのか"という言葉が突き刺さる。
負の世界遺産というひとくくりでは済ませたくない数多くの暗く悲しい私たちが犯した罪の土地。ダークツーリズムの意味を考えたい。
(レビュー:ikutti)
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