世界の書店に広がる“本の売り方”「Blind Date with a book」とは?
東京はすっかり初夏のような陽気になっているが、つい1ヶ月前はまだ冬だった。
3月中旬のニューヨークは記録的な冬の嵐の直後で、雪が路肩に積み上げられていた。気温はマイナスになるときもあり、ヒートテックなしでは生きていけない。こんなにも早く季節は変わるのか。
「トートバックに本を詰め込んで」シリーズ。今回もニューヨークの書店で出会ったものをお伝えしていく。前回はニューヨーク伝説の書店「STRAND BOOKSTORE」のイケてる店内を紹介したが、他にも魅力的な本屋が目白押しである。
アメリカ自然史博物館の近く、West 82nd Street、Columbus Avenue沿いにある**「Book Culture on Columbus」**の店頭はとても賑やかな雰囲気だ。本店が少し離れたコロンビア大学近くにある。
店内は書籍のほかに、雑貨なども陳列されている。中央の柱には「book culture」のトートバッグが掛けられており、「STRAND BOOKSTORE」のトートバッグよりもかなりシンプルなデザインでありながら、より「本」を強く思わせるものになっている。
店内をうろうろしていると、こんなものも置かれていた。
「BENTO BOX」。つまりはお弁当箱である。弁当がそのまま「BENTO」に。この日は春の陽気を感じられる快晴だったので、こんなシンプルなデザインにサンドウィッチを詰め込んで公園へ行って読書したら楽しいだろうなと想像した。
個性的な店内を歩き回っている中で、最も印象に残ったのが**「Blind Date with a book」**というコーナーだ。
一冊の本を藁半紙でまるまるラッピングしてしまい、表紙を見せないようにする。その上で、**「Read Me if you liked」**と書かれた紙を貼るのである。
「Read Me if you liked」とは、「もしよかったら私を読んで」という意味。ここには、4冊のタイトルと書籍名が書かれている。「もし、これらの本が好きだったらきっとあなたも好きよ」という意味なのだろうか。村上春樹の小説『スプートニクの恋人』の名前も見える。
この作家が好きなら、この作家のこの小説もきっと気に入る、という「好みの連鎖」は確かに存在する。「Read Me if you liked」に書かれている4冊の本から、新たな本との出会いが広がるというのはなんともロマンのある話だ。
この企画はもともとオーストラリアの書店**「Elizabeth’s Bookshops」**のスタッフが始めたものだそうで、海を渡って広まっている。
日本では昨年、1冊の本を選び著者・出版社・表紙を隠して売る、さわや書店フェザン店が仕掛けた「文庫X」が話題になった。「情報を徹底的に隠したまま売る」という手法が、新たな本との出会いの創出につながり、世界の書店で実践されているということは面白いことだ。
アメリカ最大の書店チェーン**「BARNES&NOBEL BOOKSELLERS」**。ニューヨーク内にもたくさんあるのだが、私が訪ねたこの店舗はユニオン・スクエアに隣接している。
その中にも**「Blind date with a book」**はあった。
「PICK ME!」の文字が可愛い。「book culture」では紙に4冊の本がヒントとして書かれているが、「BARNES&NOBEL」でもその本の内容を知る手掛かりとなるヒントが書かれているのである。
AN EPIC BATTLE RAGES
CHILLING DARK REALMS
GRIPPING, VISCERAL SHOCKER
WITH A PSYCHO AT THE HELM
前列左の本のヒントの一部を文字起こししてみたが、これだけではちょっと分からない…。しかし、こうした言葉の端々から自分に合うかどうかを判断し、ちょっとした冒険をしてみるというのは、日常の中の新たな刺激になるに違いない。
■米アマゾンがリアル店舗を出店する場所は、ニューヨークの一等地
ちなみに私が滞在中に宿泊していたユースホステルは、「コロンバスサークル」という大きな円形交差点の近くにあり、タイム・ワーナー・センターという高層ビルの地下のスーパーをよく利用していたのだが、ちょうどそのビルの中に米アマゾンが2店舗目となるリアル書店を開く予定で、「Opening This SPRING」と書かれた看板が掲げられていた。
ちなみにこのコロンバスサークルには、かのドナルド・トランプ米大統領が所有する「トランプ・インターナショナル・ホテル・アンド・タワー」もある。
そびえ立つ黒々としたビルのふもとには、地球儀が設置されている。なんと言ったらいいのか分からないが、トランプが地球を見下ろしていると見えなくもない。
(金井元貴/新刊JP編集部)