だれかに話したくなる本の話

【「本が好き!」レビュー】『父・夏目漱石』夏目伸六著

提供: 本が好き!

最初にお断りしておくが、私は漱石が苦手である。
どれぐらい苦手かと言えばおそらく「嫌い」と言い切ってもいいぐらいだと長い間ずっと思ってきた。 といっても、10代の頃、学校の授業で 『こころ』を読んで以来、彼の作品には近づかないようにしていたので、読まず嫌いだったといっていい。

ところが、 2016年の課題図書倶楽部で 『明暗』を読んだところ、これが思いの外面白く、続けて読んだ『漱石の思い出』にも刺激されて、ついに読まず嫌いを克服してみる気になり、昨年開催された読書会 <100年目に読む漱石>への参加を機に、月1ペースで「吾輩は猫である」 「坊っちゃん」 「文鳥」 「虞美人草」 「三四郎」 「それから」 「門」を読んだ。

読んでみると確かに肌に合わない作品はあったが、意外に面白く読めたものもあって、天下の文豪は私の中で(まあこれからも機会があれば読んでみてもいいかな)ぐらいの位置づけに格上げされた。

ところが、没後100年の昨年に続き、今年は生誕150年なんだとか!またまた 記念企画が持ち上がり、“機会”がめぐってきてしまった。
しかし、しかしだ。
去年あれだけ立て続けに読んだ後とあって、正直なところ漱石の顔はもうしばらくみなくても良いような気が……。 仕方が無いからなにか取っつきやすそうなところから……というわけで、漱石の6番目の子にして次男坊の著者が語る父の話を読んでみることにした。

といっても漱石は、著者がかぞえで9歳、小学二年生の時に亡くなってしまったので、この本に書かれていることの多くは、漱石死去後の夏目家の人々や漱石の弟子たち、また漱石全集等を手がけた著者が自ら調べたり考察したりしてきたことに基づいて書かれている。

なにしろ、伸六少年の記憶に鮮明に残っているのは、息子二人を連れて散歩に出かけた漱石が、当時の著者には全くわからなかった理由で突然キレて、"下駄ばきのままで踏む、蹴る、頭といわず足といわず、手に持ったステッキを滅茶苦茶に振り回して、"全身へ打ちおろしてきた姿だというのだから。

それでも長姉は「伸ちゃんは達はとてもよかったのよ。だってお父様が一番病気のいい時に育ったんですもの」と言うのだとか。

たとえそれが神経の病に起因するものだったとしても、またこの時代、親の子に対する折檻はめずらしくなかったとしても、そうした行為に及んだ父への子どもたちの想いが複雑なのは想像に難くない。

それでも、息子は息子なりに父とその作品を理解しようとし、“漱石を知る”とする人たちから発せられた息子にとっては理不尽に思えるあれこれについて反論を試みもする。

この本を読んでやはり『草枕』や『硝子戸の中』は、読んでおかねばならないだろうという気になった。

小宮豊隆に関するあれこれには心底うんざりさせられたが、こんなに酷評されている森田草平になぜあの平塚らいてうが惹かれたのかには興味を持った。

普段は作家の“周辺”には余り興味を持たない私だが、10月末まで開催されている <生誕150周年祭!>の期間中に、またまた関連書籍にも手を出してしまいそうな気がする。

(レビュー:かもめ通信

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本が好き!
『父・夏目漱石』

父・夏目漱石

息子が記録した癇癪持ち大作家の素顔。偏屈で癇癪持ちの父。その怒り爆発の瞬間、日記に残した子どもへの情愛、臨終の一部始終を、次男坊の記憶でスケッチした名随筆。

この記事のライター

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