作家が自分自身をモチーフに小説を書くときに感じる「しんどさ」と「覚悟」
■難航したのは「死後硬直していくシーン」
――『ラヴィアンローズ』の中で最も難航した部分はどこでしたか?
村山: 何回も逡巡したところは、穴を掘って道彦の死体を埋めるところですね。
ただ、「穴を掘って埋めた」というだけならば楽なんですけど、どのように硬直していくのか、どのように腐敗していくのか、リアルに書かなくては物語に説得力がなくなるのに、私自身は残念ながら実際に死後硬直が始まった遺体を二つ折りにしたことはないわけで(笑)。
今まで自分の手触りとして残っているのは、死んでしまったネコや犬がどんな風に硬くなっていって、それはどれだけ絶望的な硬さなのか。もしそれが愛する人ならばどうなのか、かつて自分を傷つけた男ならば…と重ねていって、想像していくしかないんです。
やり方によっては書かずに済ますことができたシーンもあったかもしれないけれど、逃げてはいけないと思って書いていました。
20数年、この仕事をしていると、それなりの技術は身に付きます。もし逃げても「あ、ここは避けているな」と思わせないこともできるわけで、それでも今回はすべての過程を咲季子と一緒に追体験し、それを言葉に翻訳して書かないと、意味がないと思っていました。
――村山さんにとって、咲季子にとっての薔薇の庭のような何があっても守る存在はありますか?
村山: 今、一緒に暮らしているネコたちですね。彼らの一生は私が責任を持って面倒を見ないといけないわけですから。
私がいなくなっても面倒を見る人がいないわけではないと思えることは一つの安心ではあるけれど、もし私が一人であれば、なんとか守りたいと思うでしょうね。
―― そういえば、村山さんのツイッターでもネコの写真をアップされていますね。
村山: 作家のアカウントをフォローしたはずなのに、ネコと食べ物しか出てこないと言われることもあります(笑)。
でも、そういう存在がたまたまネコだったということであって、私の献身を必要とする相手に関して、途中で投げ出すことは無理ですよね。実人生ではそういう情を男性にかけてしまうからややこしいことになってきたわけですが(笑)。
(後編は9月3日配信予定!)