だれかに話したくなる本の話

「『君の膵臓をたべたい』だけのブームで終わったらどうしようと思っていた」 注目の小説家・住野よるにインタビュー!

ビュー作『君の膵臓をたべたい』の大ヒットが冷めやらぬ中、新作の『また、同じ夢を見ていた』(双葉社刊)が注目を集めている小説家・住野よるさん。
『また、同じ夢を見ていた』は、本が好きな小学生の女の子・小柳奈ノ花が、さまざまな人たちとの交流を通して、「幸せとは何か」を追い求めていく物語。「人生とは」「幸せとは」という哲学的なテーマを子どもの視点から切り取った本作は、大人になるにつれて失っていく大切なものを思い出させてくれるとともに、大きな余韻を残すエンディングまで一気読み間違いなしの作品です。

そんな『また、同じ夢を見ていた』はどのようにして書かれたのか? お話をうかがってきました。また、インタビュアーとしてブックアイドルのASUKAさんが登場! 住野さんの「本体」が明かされた(?)写真も注目です。3回にわけてお送りするインタビューの第一回です。

(取材/ASUKA、金井元貴、文/金井元貴)


■新人賞に通らなかった小説が異例のヒット

金井:まずは、デビュー作『君の膵臓をたべたい』のお話を少しうかがいたいのですが、書籍は現在55万部を超える大ヒットになっています。どのような心境でいらっしゃるんですか?

住野:不思議な気分です。『君の膵臓をたべたい』は新人賞の一次審査を通らなかった小説で、「小説家になろう」にアップしたところ双葉社さんにお声をかけていただいて本になったという経緯があるので、たくさんの方に受け入れられているのを見ると…不思議です。なんだか「あ、良かったね」みたいな(笑)

出版されて本屋に並んだときも「あ、並んでる」みたいな感覚だったのですが、実感したのは本の発売前に自分がよく行く書店さんにポスターが貼られていたときですね。「本当に売られるんだ」と感動しました。

金井:デビュー2作目となる『また、同じ夢を見ていた』も出版以来、ベストセラーランキングにずっとランクインしていますよね。

住野:ありがたいですね。『君の膵臓をたべたい』だけのブームで終わったらどうしようと思っていたので(笑)

金井:『また、同じ夢を見ていた』について、読者の方々がどのような反響が届いていますか?

住野:前作ほど分かりやすい感動ポイントがあるわけではないと思うのですが、読者さんからの好みの声が『また、同じ夢を見ていた』と『君の膵臓をたべたい』で割れていて意外です。

ASUKA:『また、同じ夢を見ていた』はどのタイミングで書かれた小説なんですか?

住野:双葉社さんに声をかけていただいたのが2014年9月だったので、その前ですね。2014年前半くらい。デビュー前に書いていました。

ASUKA:「幸せとは何か」を問うテーマですが、ずっとこのテーマで書こうと思っていらっしゃったのですか?

住野:そういうわけではなくて、その前に書いていた『君の膵臓をたべたい』は受けることを狙って書いた作品なんです。でも、選考に通らなかったので、ならば自分の好きなものを詰め込んだ小説を書こうと思って執筆しはじめたのが『また、同じ夢を見ていた』でした。まずは小生意気な女の子が好きだったので、その登場人物をつくって。

金井:なるほど! それが主人公の奈ノ花ちゃんなんですね。

住野:そうです。その子があれこれ考える物語を書いていったところ、「幸せ」というテーマに行き着きました。

ASUKA:この小説の終盤で、「自分の中の幸せの定義が変わっていないことを確認して」と書かれていましたが、住野さんの中では昔と今とこれからで、幸せの定義は変わらないと思いますか?

住野:小説家になってからは、読者さんなり担当編集さんなり、自分の作品を誰かが待っていてくれるということが幸せです。デビュー前は誰にも頼まれずに書いていたので、その分、期待していただいていることは嬉しいです。だから、幸せの定義は小説家になる前と後では変わっているように思います。

ASUKA:では今後も、住野さんにとっての幸せは変わるかもしれない。

住野:そうですね。でも、賞を取りたい、もっと売れたいと思ったら、純粋に小説を書きたいと思っていた自分からブレてしまうので、今は読んでくださる人たちのために書くことが自分にとっての幸せに繋がるようになればと考えています。

■「クレヨンしんちゃん」に憧れています

ASUKA:『また、同じ夢を見ていた』を読む前は自分のことをすごく子どもだと思っていたんです。でも、この小説の中で奈ノ花ちゃんが、純粋さを持っていろいろなところにぶつかっていく姿を見て、「これが子どもなんだ」と思ったんですね。あ、実は自分はすごく大人だったんだっていう気持ちになって。



住野:大人になるということは汚れることでもあると思うけれど(笑)、どんな大人になっても、それは自分で選んでそうなってしまったわけですよね。大人になって純粋さがなくなったから動けなくなるわけではないと思いますし、奈ノ花のようにぶつかっていくことはできるんじゃないかなと思います。

金井:キャラクター作りはどのようにしていったのですか?

住野:まずはとにかく自分の好きなものを詰め込んでいきました。小生意気な女の子を入れて、次に一人ぼっちの女子高生。

ASUKA:それでできたのが南さんですね。

住野:そうです。そして、陰のあるお姉さんが好きなので、アバズレさんを…。おばあちゃんも老人と子どもの交流が書きたいと思っていたので。そんな感じで4人が作られました。

金井:桐生君と荻原君はどのように?

住野:この2人は奈ノ花の成長のために登場させました。

金井:子どもの心情を描くことってすごく難しいと思うのですが、違和感なく読むことができました。

住野:それは僕自身、子どもだからかもしれません(笑)。双葉社さんから出ている『クレヨンしんちゃん』がすごく好きで、子どもの目線でしか見えない真実をポッと言ってしまうじゃないですか。ああいうのにすごく憧れます。

でも、子どもの物語ばかり書いていると、「こういう作風なんだ」と思われてしまうので、そろそろ異なる作風のものも書かないといけないと思っているんですけどね。

ASUKA:登場人物の中で、一番自分と似ている人って誰だと思いますか?

住野:本を読むのが好きなので、そういう意味では奈ノ花が一番自分っぽいかもしれません。本を読んでいる自分が特別だと思い込むところとか。

金井:そこで優越感を感じていらっしゃったわけですね。昔から本は好きだったのですか?

住野:そうですね。小学生の頃から好きで読んでいました。

ASUKA:小説を書こうとしたのもその頃なんですか?

住野:書きたいと思ったのは中学生のときです。宗田理さんの『ぼくらの七日間戦争』をはじめとした「ぼくら」シリーズが好きで全部読んでいたのですが、その好きという気持ちが飛び出して、自分で書いてみようと思って書き始めました。小説家を目指し始めたのは、大学生くらいですね。

(続きは6月26日配信予定!)

この記事のライター

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金井元貴

1984年生。「新刊JP」の編集長です。カープが勝つと喜びます。
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audiobook:「鼠わらし物語」(共作)

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