村上春樹?夏目漱石?それとも…小説家が選ぶ「影響を受けた作家」第1位が決定!
この本を読んで考え方が変わった」
「昔読んだこの本は今でも心に残っている」
決して数多くはないが、読んでいるとこれまでの価値観を一新させられたり、物の考え方が根本的に変えられたりする本がある。
たとえば、『羊と鋼の森』で2016年本屋大賞の第1位に輝いた作家の宮下奈都さんは、以前、「新刊JP」が行ったインタビューで「人生で影響を受けた本」として、『沿線地図』(山田太一)を挙げ、
「高校生の最初の頃に読んで眼が覚めたっていうか、小説として読んだっていうよりも、それこそ人生に直接影響を受けたという感じです。“こんな寝ぼけた生活はダメだ!”って思って(笑)何だか走り出したいような気持ちになったのをはっきり覚えています」と評している。
■では、もっとも作家たちに影響を与えた作家は?
新刊JPのコンテンツ「ベストセラーズインタビュー」では登場した作家たちに「人生で影響を受けた本」を聞いている。
これまで全79回、登場してくれた作家は80人。紹介してくれた本は計193冊に及ぶ。
となると、気になるのは、「人生に影響を受けた本」として作家たちから最も支持された本やその作者だろう。
「作家たちに最も影響を与えた作家」は誰なのだろうか。作家たちの声を集計するとこんな結果となった(結果は2016年5月25日時点のもの)。
■ガルシア=マルケス、谷崎潤一郎、夏目漱石、「レジェンド」が上位を独占
1位……ガブリエル・ガルシア=マルケス(4人)
2位……司馬遼太郎、夏目漱石、谷崎潤一郎、村上春樹、手塚治虫(3人)
3位……レイモンド・チャンドラー、大江健三郎、沢木耕太郎、宮部みゆき、川端康成、山田太一、梶井基次郎、M・バルガス=リョサ、ミゲル・デ・セルバンテス、太宰治、ちばてつや(2人)
作家たちからの「影響を受けた」という声が最も多かったのが、1982年にノーベル文学賞を受賞したコロンビアの作家、ガブリエル・ガルシア=マルケスだ。
特に代表作である『百年の孤独』は古川日出男さん、上田岳弘さんら3人の作家がその名を挙げ、テレビドラマにもなった『ビブリア古書堂の事件手帖』の作者、三上延さんは『予告された殺人の記録』を挙げていた。
(ガルシア=マルケスを選んだ作家たち。写真左上から時計回りに古川日出男さん、岩崎夏海さん、三上延さん、上田岳弘さん)
次いで多かったのは夏目漱石、谷崎潤一郎、村上春樹、司馬遼太郎、手塚治虫の5人で、それぞれ3票ずつ集めた。
夏目漱石は、『吾輩は猫である』を挙げた小山田浩子さんら、谷崎潤一郎は『鍵・瘋癲老人日記』を挙げた平野啓一郎さん、『陰影礼讃』を挙げた田中慎弥さんなど(いずれも芥川賞作家)。
(写真上段・谷崎潤一郎を挙げた作家たち。左から原田マハさん、平野啓一郎さん、田中慎弥さん。写真下段・夏目漱石を挙げた作家たち。左から上野誠さん、山田宗樹さん、小山田浩子さん)
■歴史作家が影響を受けたのは、やっぱりあの人
和田竜さん、葉室麟さんら、歴史小説家から強く支持されたのが司馬遼太郎。両氏ともに『竜馬がゆく』を挙げて、
「最初に読んだ歴史小説。影響は受けている」(和田さん)
「歴史小説のおもしろさに気づかせてくれた」(葉室さん)
としているあたり、その影響力の大きさがうかがえる。
(写真上段・司馬遼太郎を挙げた作家たち。左から和田竜さん、葉室麟さん、青木淳悟さん。写真下段・手塚治虫を挙げた作家たち。左から唯川恵さん、さいとう・たかをさん、夢枕獏さん)
そして、手塚治虫は前述の夢枕獏さん、唯川恵さんのほかに漫画家のさいとう・たかをさんが挙げ、唯一「現役作家」としてランクインした村上春樹氏は古川日出男さん、上田岳弘さんらに支持された。
この他、『深夜特急』が知られる沢木耕太郎、ノーベル文学賞受賞者である川端康成、大江健三郎、エンターテインメント小説の大家、宮部みゆき、『長いお別れ』が有名なレイモンド・チャンドラーらの名前が複数の作家から挙がるなど、さすがに読書量の多い作家だけに回答が割れ、一筋縄ではいかない結果となった。
■湊かなえ、綿矢りさ、道尾秀介、みんな「本」に影響されてきた!
先日、『ユートピア』が山本周五郎賞に輝いた湊かなえさんもまた、人生の節目節目で本から影響を受けてきた一人だ。
『葡萄が目にしみる』(林真理子)は「十代の頃のバイブル」、森村桂『天国にいちばん近い島』に影響されて「いつか絶対南の島に行くんだ!」と決意。実際に青年海外協力隊としてトンガに行ったこともあるという。
惜しくも受賞を逃したものの、『アメリカ最後の実験』が同賞の候補になっていた宮内悠介さんは「自分の創作の原点」として『既にそこにあるもの』(大竹伸朗)を、直木賞作家・道尾秀介さんは太宰治の『人間失格』を「文章でしか表現できないことがあるんだ、と本当にびっくりした」として挙げている。
また、『失楽園』の作者として有名で、デビュー当時は医師だった、故・渡辺淳一氏が「自分は文学書よりも医学書から影響を受けた」と語る一方で、夢枕獏さんや唯川恵さんが『火の鳥』(手塚治虫)と、漫画から影響を受けたと語る作家もいた。
多くの場合、本との出会いは偶然だ。だから、わざわざ影響を受けたり、人生の糧を得るために本を探しにいく必要はない。だが、もしそんな本に出会えたのなら、それはとても幸運で、幸福なことだ。
(新刊JP 山田洋介)