『オリ★スタ』休刊へ 「オリコン」が青春だった新刊JP記者の想い
2016年1月28日、週刊エンターテインメント誌『オリ★スタ』の休刊が、発行元のoriconMEから発表された。3月25日発売の4月4日号で、1979年の『オリコン全国ヒット速報』創刊から37年の歴史に幕を閉じることになる。
oriconMEは休刊の理由について「雑誌市場をとりまく環境の変化は著しく、以降の成長は見込めないとの判断に至ったため」とし、今後については「ME 社が運営する WEB サイト『ORICON STYLE』に情報を集約して運営をしていく」と発表した。
つい先日、出版科学研究所が2015年の紙の出版物の推定販売金額を公表したが、そこには思わず目を覆いたくなるような出版不況の現実があった。特に雑誌は減退が目立ち、前年比8.4%減の7801億円。20年前の1995年が1兆5644億円だったので、比較すると約半分まで落ちていることになる。
このような向かい風の中での休刊は、妥当だといえるのかもしれない。しかし、「以降の成長は見込めないとの判断」というコメントは読者に対して重くのしかかる。
私が『オリスタ』の前身となる雑誌『オリコン・ウィーク The Ichiban』を読んでいたのは、1996年頃から2000年代はじめくらいで、ちょうど中学生から高校生にかけての頃だった。
たくさんのチャートが掲載されていたが、目玉はCDシングルランキングトップ100である。どのシングルがどれだけ売れているかが一目で分かるそのチャートを毎週見ていると、様々なドラマを感じられた。人気ミュージシャンによる“頂上決戦”といえるものもあれば、見開きの右ページ、つまりは51位以下で長く安定してランクインしている作品もあった。
今でも覚えているチャートはたくさんある。特に印象深いものを挙げると、1998年7月20日付のCDシングルチャートだ。
B’zの『HOME』と、L’Arc〜en〜Cielの『HONEY』『花葬』『浸食〜lose control〜』の3枚同時発売シングルの発売週が同じになった。となると、注目は今でも続いているB’zの初登場連続1位の記録に集まる。L’Arc〜en〜Cielは前作『DIVE TO BLUE』で1位を獲得、飛ぶ鳥を落とす勢いで支持を集めていたし、『HONEY』と『花葬』はワンコインシングルと手に入れやすいという背景もあった。どのシングルが1位になるにせよ、ハイレベルな戦いになるはずだ。
結果は、B’zの『HOME』が推定55万9170枚で、L’Arc〜en〜Cielの3枚を抑えて初登場1位を獲得。2位の『HONEY』とは約1万5000枚差という僅差だった。また、4位の『花葬』まで全てが初動50万枚超えという、なかなかお目にかかれない数字が並んでいた。翌週のチャートでは『HONEY』が1位を奪取することになるのだが、不思議な緊迫感があったのを覚えている。
『オリコン・ウィーク The Ichiban』は「エンターテインメントのあらゆるチャートを網羅している雑誌」でもあったが、それはあくまで一つの側面に過ぎなかった。一つの音楽ジャンルに縛られることなく、メジャーからインディーズまでを網羅しており、サブカル色の強い雑誌でもあった。
私が読んでいた当時、オリコンの名物編集者として有名だったのが猪俣昌也(イノマー)さんである。猪俣さんの文章は、とにかく存在感があった。能天気でありながら、感情をこれでもかとぶつけてくる。遠藤ミチロウさん、ロリータ18号、QP CRAZYなどといった個性豊かなミュージシャンが頻繁に登場し、ただでさえ混沌としている誌面に、副編集長降格や離婚など、自らの自虐ネタと下ネタを次々と繰り出す。ぐちゃぐちゃで何でもありだったが、ワクワクするものばかりだった。
イノマーさんが書いた文章で忘れられないのは、フィッシュマンズ・佐藤伸治さんへの追悼文である。佐藤さんは1999年3月、33歳という若さでこの世を去った。その翌月だと記憶しているが、イノマーさんによる佐藤さんへの追悼文が『オリコン・ウィーク The Ichiban』に掲載された。
編集長時代に“降格覚悟”でフィッシュマンズを表紙に抜擢したこと、フィッシュマンズが生み出す音楽への愛、そして佐藤伸治というミュージシャンへの想い。ここで私はその文章について語ることはできないし、する必要もない。ただ、読み終えた瞬間、「なんて綺麗な文章なのだろう」と思った。いろいろな感情が愛に集約されていくその文章の力は、圧倒的だった。
何の因果か、私はこうしてライターとして文章を書いているが、中学生・高校生の時期に読んでいたイノマーさんの文章、そして『オリコン・ウィーク The Ichiban』から深く影響を受けている。
雑誌名も変わってしまったが、それでも『オリ★スタ』の休刊のニュースは複雑な気持ちをもたらすものだった。また、CDの売上枚数もがた落ちし、一人による同一作品の複数枚購入商法が当たり前となりつつある中で、ヒットチャートの存在理由が問い直されている。
世は万物流転で、全ては変わる。自分の青春期を彩った雑誌が休刊するのは悲しいことだが、時間の流れに逆らうことはできない。だから、私は『オリ★スタ』に「ありがとう」という言葉を捧げて、この記事を終えることにする。
(新刊JP編集部/カナイモトキ)