だれかに話したくなる本の話

アイデアに詰まった時の対処法 小説家の場合

出版界の最重要人物にフォーカスする『ベストセラーズインタビュー』!
 第61回の今回は、8月27日に新刊『ギフテッド』(幻冬舎/刊)を刊行した山田宗樹さんです。
 『百年法』『嫌われ松子の一生』など、印象的な作品を次々と世に出している山田さんですが、この『ギフテッド』もこれまでの作品以上に、私たちを引きつけてやまない極上のエンタメ長編。新たに発見された「未知の臓器」の謎と、その臓器を持つ子ども達<ギフテッド>の運命が、現在と過去を往復する物語の中で少しずつ明らかになっていきます。
 この大作がどのように生まれ、育っていったのか。
 『ギフテッド』誕生の秘密を山田さんに伺いました。

■3、4日放っておくとアイデアが降ってくる?
―書いていて難しかったところがありましたら教えていただければと思います。


山田:これはもう、最初から全部です(笑)。構想とかプロットといったものは作らずに、とりあえず冒頭の、主人公の小学生時代のシーンを書くと、さっそく「さあ、次はどうしよう」となりました。それで、次にどんなシーンがきたら読者がついてくるだろうかというのをあれこれ考えて、シミュレーションして次のシーンを書いたのですが、最後までこの調子でしたね。にっちもさっちもいかなくて、もうダメだと思ったこともありましたし、どう考えても最後まで書けないんじゃないかと思ったことも何回もありました。そのたびに中断しながら、何とか書き上げたという感じですね。全体的な構想は結局作らずじまいでした。

―止まってしまった執筆がまた動き出す時にはどんなきっかけがあるものなのでしょうか。

山田:止まってしまったら、何かいいアイデアが降りてくるのをひたすら待つというのがいつものパターンです。いろいろ考えて先に進もうとはするんですけど、そういう時に出るアイデアってあんまりいいものがない。
仕方ないから3日か4日放っておくと、何かの瞬間にうまいアイデアが降りてくることが多いですね。放っておいている間は全然違うことをやっていたりするのですが、不思議とその方がいい考えが浮かびやすいです。何がきっかけになっているのかはわからないのですが。

―ご自身が一番気に入っているシーンはどのシーンですか?

山田:いろいろあるのですが、「ギフテッド」が入れられた学校で、仲間たちがみんなで超能力を試す場面は好きですね。いかにも子ども時代のいい思い出というシーンで。

―円陣を作って意識を集中させる場面ですね。一瞬各人の気持ちが一つに重なる瞬間があって、何か起こるのかと思いきや…

山田:あそこで何か起こってもね(笑) もう少し先を楽しみにしていただきたいと思います。

―幅広いタイプの小説を書かれている山田さんですが、ご自身にとっての「理想の小説」というのはありますか?

山田:原体験ということでいうと、大沢在昌さんの「新宿鮫シリーズ」にある『屍蘭』かもしれません。というのも、読み始めると止まらなくなってしまったんです。「一気読み」の快感というものを初めて味わいました。これがエンタメ小説の醍醐味か、と思いましたね。
自分も小説を書く以上、読者にあの感覚を味わわせるようなものを書きたい。僕が小説家として目指しているのはあの時の快感なんです。いまだにどうすればいいのかはわかりませんが。

―小説家をやっていてうれしい瞬間がありましたら教えていただければと思います。

山田:一番はやはり読者の方々の反応なのですが、プロである以上、自分の本の売り上げが数字として出てきた時もうれしいです。読者に対していいものを提供できたという意味でも、出版社からの期待に応えられたという意味でも、よかったなと思います。特に私は売れない時期が長かったので。

第3回「新人研修のレポートがウケて作家を目指すことに」につづく