ジョブズ、村上春樹…名スピーチの裏にある「メッセージハウス」とは?
わかりやすく説明したつもりなのに「結局、何が言いたいんだっけ?」と言われたり、「それはどういうことなの?」と聞き返されてしまった経験はないだろうか?
「誰かに何かを説明する」という行為は、簡単そうで難しい。そして報告も、プレゼンテーションも、商談も、謝罪も、多くのコミュニケーションには何らかの形で「説明」の要素が入る。
となると、「説明力」をつけることは、社会人としての能力を開花させるきっかけになりうる。『世界標準の説明力 頭のいい説明には「型」がある』(SBクリエイティブ刊)は、グローバル企業や国際機関で使われている「メッセージハウス」を使うことで説明力を飛躍的に高めるための一冊。今回は著者であり、メディアや国際協力、広報といった分野で活躍する「コミュニケーションのプロフェッショナル」、岩澤康一さんにお話をうかがった。その後編をお届けする。
<前編はこちらから>
■「説明力」はコミュニケーション力全体を底上げする
――説明の5つの構成要素を意識するだけでも、説明はかなり改善されるように思いました。ただ、説明が苦手な人は何ができていないから上手に説明できないのでしょうか?
岩澤:いろいろなパターンがあるとは思いますが、一番多いのは「自分の都合と相手の都合のバランスを取る」というところが苦手というケースだと思います。ただ、ここはコミュニケーションで一番難しいところです。
――その部分はある程度センスの問題になってしまうんですか?
岩澤:センスもあるし、運もあるかもしれませんが、だからこそそこは完璧を求めずに「ある程度の成功の幅」に落ち着けばいい、という気持ちでいればいいと思います。そして、その「ある程度の幅」に収めるために、コミュニケーションの「型」が大切なんです。
――逆に、説明が上手な人はそれぞれの要素を意識するだけでなく、「どういう状況で説明するか」「どうやって説明するか」「何を説明するか」についてケースに応じて最適解を見つけているはずです。ここにもセンスがあらわれるように思うのですが、ここは反復によって磨いていくしかないのでしょうか。
岩澤:その反復にかかる時間を飛ばせるのがメッセージハウスなどのフレームワークであり、型なんです。これを使うことで学習効率は上がると思いますし、完璧にはならなくても、説明の成功率も高まります。
――「メッセージハウス」というフレームワークの良さはどんな点にありますか?
岩澤:最大の良さはシンプルさです。シンプルだからそこまでの練度はいらなくて、すぐに使えます。もともと広報の世界では知られていたフレームワークで、長く使われてきた歴史もあります。
特定の業界や地域では当たり前のように使われてきたものなのですが、日本ではほとんど知られていないので、今回の本を通じてより多くの人に知っていただきたいです。
――書き込みながら使うものなんですか?
岩澤:書き込みながら使うことが多いですが、先ほどの対面のコミュニケーションのお話でもあったように、毎回書き込めるとは限りませんから、メッセージハウスにある要素を頭に入れておいて、頭の中でそれらの要素について整理して話すという使い方もできます。これもメッセージハウスのいいところです。見ながらじゃないと話せないというものではないという。
――ビジネスの場を想定して書かれた本かと思いますが、そんな場面で使えますか?
岩澤:報連相でもつかえますし、商談や会議、交渉、謝罪でも使えます。ビジネスの場での多くのコミュニケーションをカバーできると思います。
――本の中で、作家の村上春樹さんのエルサレム賞受賞スピーチやスティーブ・ジョブズのプレゼンテーションなど、よく知られているスピーチにメッセージハウスを当てはめていましたね。これはメッセージハウスでスピーチを組み立てている人が多いということなのでしょうか?
岩澤:ジョブズがメッセージハウスを使ってスピーチを考えていたという事実は確認できてないので、あくまで後付けなのです。ただ、国連の演説などで使われることは多いですね。人に伝わるスピーチは必然的に構造が似ていて、それはメッセージハウスのフレームワークに即したものになっていることが多いということをお伝えしたかったんです。
――最後に、本書の読者となる方々にメッセージをお願いいたします。
岩澤:この本で紹介しているメッセージハウスを使った説明は、世界標準の手法です。取り入れることでビジネスでも日常生活でも大いに役立つはずです。というのも、多くのコミュニケーションは、なんらかの形で説明がベースになっていますから、説明を改善することでコミュニケーション全体が改善されます。
ぜひ、この本をきっかけにメッセージハウスの型を知っていただき、活用していただけたらと思っています。
<前編はこちらから>