だれかに話したくなる本の話

日本人が知らない世界標準のフレームワーク「メッセージハウス」とは何か

わかりやすく説明したつもりなのに「結局、何が言いたいんだっけ?」と言われたり、「それはどういうことなの?」と聞き返されてしまった経験はないだろうか?

「誰かに何かを説明する」という行為は、簡単そうで難しい。そして報告も、プレゼンテーションも、商談も、謝罪も、多くのコミュニケーションには何らかの形で「説明」の要素が入る。

となると、「説明力」をつけることは、社会人としての能力を開花させるきっかけになりうる。『世界標準の説明力 頭のいい説明には「型」がある』(SBクリエイティブ刊)は、グローバル企業や国際機関で使われている「メッセージハウス」を使うことで説明力を飛躍的に高めるための一冊。今回は著者であり、メディアや国際協力、広報といった分野で活躍する「コミュニケーションのプロフェッショナル」、岩澤康一さんにお話をうかがった。

【岩澤康一さんプロフィール】
コミュニケーションコンサルタント
株式会社Key Message International代表取締役
TBSワシントン支局、国連開発計画(UNDP)東京オフィス、国際協力機構(JICA)エジプト事務所、外務省在シリア日本大使館、赤十字国際委員会(ICRC)南スーダン代表部、日本国際問題研究所(JIIA)など、日本・米国・欧州・中東・アフリカで勤務。ドキュメンタリー制作やビデオ記者経験を経て、国内/外資のファームでグローバル、デジタル、動画、リスク領域の広報コンサルティング経験を積む。
現在は独立して株式会社Key Message Internationalを立ち上げ、営利・非営利を問わず国内外のクライアントに対し、コミュニケーション領域のコンサルティングを提供している。

■日本人だけが知らない世界標準「メッセージハウス」とは?

――『世界標準の説明力 頭のいい説明には「型」がある』についてお話をうかがえればと思います。まず、岩澤さんが持っていた日本人の説明能力への問題意識について教えていただければと思います。

岩澤:「ここがダメだよ日本人」みたいなつもりはないんです。日本人は説明力が足りないから欧米のフレームワークを取り入れましょう、ということではなくて、世界中で使われている「メッセージハウス」という説明のフレームワークが日本ではほとんど知られていないので、この本を通じて知ってもらいたいという思いから書きました。

国際的な場で広く使われていて、確かな実績のあるフレームワークですし、欧米的な「逆ピラミッド型(結論が最初に来て、背景等はそのあとに来る)」の説明構造にも、日本で一般的な「ピラミッド型(背景から説明して、最後に結論が来る)」の説明構造にも対応できるので。

――「ピラミッド型」「逆ピラミッド型」のお話は本の中でも書かれていました。良し悪しとは別に、日本で一般的な「ピラミッド型」の説明構造で報連相やプレゼンテーションを行うと、海外企業の人には伝わりにくいのでしょうか?

岩澤:そこは文化によるのではないでしょうか。たとえば米国では「まず結論を」という文化が支配的ですから、背景から説明してなかなか結論が来ないと「わかったわかった。で、何が結論なんだ?」となりやすいのは確かです。

一方で、例えばアフリカのケニアは文化的にはかなり日本と近くて、コミュニケーションの距離感や間接的な表現を好むところも似ている。だから、日本的なピラミッド型の説明構造を使っても、「結局、何が言いたいんだ?」とはなりにくいように思います。

また、国連などの国際機関は必ずしも欧米的な文化だけが浸透しているわけではなくて、世界中の文化が混じっています。だから、国際的な場だからといって欧米的な逆ピラミッド型の説明構造を使わないと聞いてもらえないかというと、そうでもない。相手によって使い分けるのが大事で、それは一般的なビジネスのコミュニケーションにも言えることだと思います。

――社会人生活が長くなると、説明についても「自分はある程度できている」と思いがちですが、この本を読んでそれは思い込みに過ぎないと感じました。特に第一章で「説明とは何か」について解説されていた箇所は非常に勉強になりました。

岩澤:説明とはどんな要素によって成り立っているのかを理詰めで書いた箇所ですね。「説明を説明する」というのは、ありそうで実は珍しいのかもしれません。

――本書が役立つのはどんな人だとお考えですか?

岩澤:書いた時の目論見としては20代、30代くらいで、コミュニケーションに苦手意識を持っている人が読んで役立ててくれたらいいなという気持ちがありました。

コミュニケーションって実はいろんな「型」があるじゃないですか。「こういう時はこういう型だな」というのを掴み切れていない人の助けになればいいと思います。

一方で、出版して以降、広報業界にいる方をはじめとしたコミュニケーションの有識者の方からも好意的な反応をいただいています。その意味ではコミュニケーションの「玄人」の方が読んでも、参考になる本にできたのかなと思っています。

――説明能力は「優秀さ」を印象付けるものでもあります。この能力はトレーニングで身につけられるものなのでしょうか。

岩澤:コミュニケーションってグレーゾーンが多いですし、時に矛盾も孕む、あいまいなものです。その意味では「これをやれば完璧にコミュニケーションができる」といった正解はありません。そのあいまいさが難しいところなのですが、あいまいさゆえにいい議論ができたり、いいアイデアが出たりもする。

そこを理解したうえでいかに「いいさじ加減のコミュニケーション」ができるかが大切です。そのいいさじ加減=良い加減をいかに把握するかということでいえば、トレーニングで身につけることもできると思いますし、この本で紹介している「メッセージハウス」の型を使うことで、うまくいったコミュニケーションの再現性を高めることができると思います。

――コミュニケーションには時間の問題もあります。メールや手紙は言い回しを考える時間がありますが、対面のコミュニケーションではある種の「瞬発力」が必要になります。とっさの言い回しが必要なコミュニケーションも「メッセージハウス」で改善していくことができるのでしょうか。

岩澤:メッセージハウスで改善できる部分もあると思います。メッセージハウスは家の形をした図形に、キーメッセージや、ターゲットオーディエンス、背景情報など説明に必要な要素を入れていきます。それによって、「誰に、何のために説明するのか」がはっきりしますし、説明の内容も整理されます。

非常にシンプルにできていますから、メッセージハウスに記入する要素はすぐ頭に入ります。考える時間が短い対面のコミュニケーションでも効果的です。

また、説明には種類によって適切な場やタイミングがあるじゃないですか。その意味ではTPOが大事なのですが、これは必ずしも自分で選択できるわけではありませんよね。ただ、メッセージハウスを使うことである程度どんな場、タイミングでも、伝えなければいけないことはきちんと相手に伝わる説明はできるようになると思います。

(後編につづく)

世界標準の説明力 頭のいい説明には「型」がある

世界標準の説明力 頭のいい説明には「型」がある

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