だれかに話したくなる本の話

優秀な人でも海外で働くと戦闘力が「10分の1」になる理由

人口減社会となり市場の拡大が見込めない日本よりも、海外市場にチャンスあり、と海外進出を目論む企業は少なくない。

ただ、海外経験や海外でのビジネスの経験やノウハウがない企業が海外に出て、思わぬトラブルに巻き込まれたり、ビジネス以外のところでつまずいてしまう事例もまた珍しいものではない。『次世代リーダーが知っておきたい 海外進出”失敗”の法則』(パノラボ刊)は、日本企業の海外進出で起こりうるトラブルとその対策をストーリー形式でわかりやすく解説する。

知識を得ずに挑戦するとさまざまな「落とし穴」が待っているのが海外市場。今回は著者で公認会計士の森大輔さんに、これらの落とし穴の実態についてお話をうかがった。その後編をお届けする。

森大輔さんインタビュー前編を読む

■どんなに優秀な人でも海外に行くと「戦闘力が10分の1になる」

――現地スタッフに手玉に取られることで不正が起こる事案もありました。現地で一緒に仕事をする人になめられないために大切なことはどんなことですか?

森:当たり前ですが、一番は仕事で成果を出すことです。ただ、海外に赴任していきなりそれができるかというとかなり難しいと思います。というのも、海外経験や外国人と働いた経験がない日本人が海外赴任をすると、戦闘力は「1/10」になるといっても過言ではありません。ですから、赴任した直後に現地で一緒に仕事する人になめられないためには、決して下手に出過ぎない、ペコペコしすぎない、堂々と振る舞う、相手に決断させない、貰ったメッセージなどには必ず即レスをする、といった基本動作の徹底が大切です。

――日本人の基本的な作法は外国人からすると弱腰に見えかねないのかもしれませんね。

森:「礼儀正しくする・人を尊重した行動をとる」のは大事ですが、下手に出過ぎないように注意する必要があります。日本人の文化を知っている外国人なら問題ないですが、そうでない外国人からすると、下手に出過ぎる人は弱々しく見えます。これはG7参加国の首相の振る舞いをみるとイメージつきやすいのではないでしょうか。

また、最終決定権限は常に自分が持っておくことも大切です。現地だからよく分からないという理由で、権限まで委譲すると大変なことになります。最終承認や決定権限はしっかりと自ら握っておく。でも、そこまでの過程ではしっかりと会話のキャッチボールをする、ということを心がけていただきたいです。

――戦闘力が「1/10」というのは、言葉の問題があるからですか?

森:言葉の問題ももちろんあります。あとは、味方がいないことですね。日本だったらわからないことや困ったことがあったら誰かしら周りに頼れる人がいると思いますが、海外に行くと人脈がゼロになるわけで、簡単なことでも頼れる人いないんです。

だから、海外にいくとどんなに日本で仕事ができた人でも、これまでいかに自分がいろんな人に支えられて仕事をしてきたか、いかに育ってきた環境の基礎能力で仕事をしてきたかを実感すると思います。

――イギリスとドイツの文化の違いによってトラブルになる事例もありました。海外経験が少ないとこうしたトラブルを未然に防ぐのは難しいように思いましたが、これは本書にあったように「対立の起きにくいメンバーをアサインさせること」である程度回避できるのでしょうか。

森:理想は個々人の性格やバックグランドを把握し、仕事が円滑に回るように組み合わせでアサインするのが理想ですが、人数が限られた中での仕事ですから、そうもいかないことが多いでしょうね。

そんななかで「対立の起きにくいメンバーをアサインする」というのは一つの策です。これは決して業務をするコアメンバーを対立の起きにくいメンバーにする、という意味ではなく(可能ならそうですが、リソースも限られています)、仮に対立が想定される場合、それを上手くハンドリングできそうな、仲介できそうな人を入れるということも一つの策です。本書では内部監査を例にしていますが、その他のプロジェクトも然りです。

世の中にある大手グローバル企業は多人種での業務は慣れているので、このようなトラブルはあまり想定されませんが、海外経験が少ない企業の場合では、表沙汰にはならなくても、裏方で起きた文化的背景の対立を聞いたりします。ただ、日本人はこうした対立をうまくハンドリングできる資質を持っている人が多いとも感じています。

――コンプライアンスに対する意識も国によってかなりばらつきがありそうです。こうした現地スタッフの意識面の改革の進め方についてアドバイスがありましたらお聞きしたいです。

森:「正しいことをしよう」という企業カルチャーや仕事への意識づけを常にしていくことです。これは本の中で書いた「不正のトライアングル」の中の「正当化」に該当する部分ですが、これはソフト的な面であり、非常に難しいところです。日本のようにほぼ単一民族ならともかく、多国籍・海外となるとバックグランドが違い過ぎて意識の醸成は大変ですが、それでも「常に正しいことをする」ということを日本人経営層・管理者層が口に出し、企業全体の会議でも伝えていくことが大切です。

また、なぜコンプライアンス違反がいけないのか、どういった処罰があるのか、ということについて、社内での研修をしっかり行うことも必要です。日本ではそのあたりは性善説もあり、あまり力を入れていなかったり、研修も「とりあえず軽くやる」という程度で終わりがちですが、海外ではことさらしっかりやるべきです。

――繰り返し会社の価値観や善悪観を伝えることで、現地にもそれが浸透していくということですね。

森:それもそうなのですが、そういった価値観を繰り返し伝えることで、その会社の企業文化が合わないと思った人は辞めていきます。最終的に価値観に共感できる人だけが残っていくので、人材の選別ができるという意味もあります。

――本書をどんな人に読んでほしいとお考えですか?

森:何らかの形で自分や会社、周りの人が海外と接点がある、興味がある、海外が気になる人、そしてすでに海外ビジネスを行っているものの事業の裏側で悩みを抱えている人、事前に海外ビジネスの裏側での躓きポイントを把握しておきたい、という人に読んでいただけたら、参考になる部分が多いのではないかと思います。

――最後に海外でのビジネス展開を考えている方々、そしてすでに海外でビジネスをしているもののトラブルなどでなかなか軌道に乗らずに悩んでいる方々にメッセージをお願いいたします。

森:「海外に出て、よりビジネスを拡大したい」「海外での販売を伸ばしたい」といったことは私の専門ではありません。でも、ビジネスを拡大する過程で起こりうる、予期せぬトラブルの事例についてはたくさん見てきました。日本の企業が自信をもって海外へ進出し、海外での事業を発展させられるように、「転ばぬ先の杖」としてこの本を参考にしてもらえたらうれしいです。

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