海外進出で現地法人とトラブルになる企業の共通点とは?
人口減社会となり市場の拡大が見込めない日本よりも、海外市場にチャンスあり、と海外進出を目論む企業は少なくない。
ただ、海外経験や海外でのビジネスの経験やノウハウがない企業が海外に出て、思わぬトラブルに巻き込まれたり、ビジネス以外のところでつまずいてしまう事例もまた珍しいものではない。『次世代リーダーが知っておきたい 海外進出”失敗”の法則』(パノラボ刊)は、日本企業の海外進出で起こりうるトラブルとその対策をストーリー形式でわかりやすく解説する。
知識を得ずに挑戦するとさまざまな「落とし穴」が待っているのが海外市場。今回は著者で公認会計士の森大輔さんに、これらの落とし穴の実態についてお話をうかがった。
■海外の現地法人とトラブルになる企業の共通点
――『次世代リーダーが知っておきたい 海外進出”失敗”の法則』は企業の海外進出にまつわる様々な事例をストーリー形式で紹介しています。まず、森さんが本書を書くうえで持っていた問題意識についてお聞かせください。
森:公認会計士として諸外国とビジネスをしていくなかで、これだけ優秀な日本人がなぜ海外に出ると推定期待値以上の躍進ができないのかが疑問でした。海外でビジネスをするのに売上を伸ばすのは当然ですが、一方で「現地法人における決算数値の不正操作」「コンプライアンス違反」「海外子会社が言うことを聞かない」といったところでつまずいてしまう企業もあり、本当にもったいないと感じています。
また、コロナ禍で若者が海外に行くのを避けたり、会社都合で海外に行けなくなった、という話を何度も聞きました。今こそ海外と疎遠になっていた次世代リーダーの方には再チャレンジしてほしいという気持ちです。
――こうしたつまずきは日本企業に特有のものなのですか?
森:いえ、相対的に見たら海外でビジネスをしている日本企業はうまくやっているとは思います。真面目な国民性ですし、優秀な人が多いですからね。ただ「もっとできるのに」という印象はあります。
もっと言うと、日本企業でも「グローバル企業」と呼ばれる会社は、海外での経験の蓄積がありますし、いい人材も多いのでそんなに問題はないんです。でも、大きくはないけれど海外に出てみた会社で「ノウハウがないし、情報もなくてなかなかうまくいかない」という声を耳にします。今回の本はそういう会社や、これから海外に出ようとしている会社向けに書いています。
――現地法人や海外子会社、あるいはそこの経営陣をいかにマネジメントするか、というのが海外進出の大きなテーマだと感じました。現地法人とトラブルになりやすい会社に共通点がありましたら教えていただきたいです。
森:日本の本社と現地法人や現地子会社は「親子」です。すべて「現地任せ」ではうまくいきません。バブル期に日本企業が海外の至るところへ進出しましたが、その後の経済停滞でコスト減などの目的で現地法人のローカリゼーションが進み、本社の関与が減った結果、現地法人が権力を持ちすぎてしまう事例が出てきています。
では、どのような「親子関係」を築くかという点ですが、昔ながらの日本の家族風景を思い浮かべるとまちがいなく失敗します。「父親の言うことが絶対」では子は言うことを聞きません。なにせ「子」はもう自分でお金を稼いでいて、しかも遠い場所にいるわけですから。
指示が一方的でなおかつ曖昧であるとか、決断ができない、対面で話せない、物事の背景や理屈を話せない、仕事を持ってこれない、将来性を見せられない、対等な関係として話せない、強いメッセージを示せないなどと、親としてあたりまえのことができないと、海外子会社の経営陣のマネジメントは難しいと感じます。
この本でも書いているのですが、従来の日本企業の場合、親会社からのプレッシャーや締め付け、柔軟性に欠けた強制などが多く、それに嫌気がさした海外子会社はいいことだけを報告して、悪いことは報告しないようになり、最終的に決算数値・報告数値の改ざんに走ってしまうといったことを何度も目にしてきました。
――海外駐在する人は、現地の商習慣を柔軟に取り入れることが成功のカギだとは思いますが、「郷に入っては郷に従え」も行き過ぎると不正が起こりやすくなるという教訓も読み取れました。不正やトラブルに巻き込まれないためにはどんな行動や考え方が必要になりますか?
森:重要な、キーとなる制度・体制・内部統制は必ず設けておく、性悪説を前提に油断は絶対にしない、といったことでしょうか。具体的には「お金の出入りや契約書、社内稟議、決算書の承認や月次の数値の動きなどは経営に精通した日本人がチェック・最終承認する」、「モノのカウントについて日本人が入る」、「経営会議や取締役会に日本人が入る」などです。
とはいえ「経営に精通した人材」となると現地に送り出す日本人のスペックハードルが上がってしまいますから、まずは「日本人がいつも見ているから変なことはできないな」と現地の人に思わせることが肝要です。そして、大前提として「何をしたらいけないのか」という基礎知識を現地人材に教育することも大事です。
また、行動面について補足するとしたら、現地のコミュニティに深く入り込める人は上手にやっていると思います。日本人が海外の子会社に社長として行っても、当然向こうは現地の人ばかりなので壁があるんですよね。「郷に入っては郷に従え」も行き過ぎるとよくないのは確かなのですが、そうはいっても現地従業員に「家族」と思ってもらえないと壁はなくなりませんから、地元のイベントに参加してみたりとか、積極的に現地に溶け込む努力は必要だと感じています。
――キーになる制度・体制・内部統制は必ず設けておくというお話がありましたが、これから海外に出る企業の場合ノウハウがありません。イチからやっていく場合どう進めていくのが正解なのでしょうか。
森:何もないところから海外に進出したとして、最初に発生するのはお金の問題です。お金を出資してもらったり、支払いが生じたりといったことがまず生まれるので、そこのお金の出入りは日本人がしっかり見る、ということですね。
次は、ものの売り買いで請求書を発行したりとか、お金の出入りに付随した業務があれこれと出てくるのですが、そこでも重要なところは現地スタッフに任せず日本人がやる。その過程で現地スタッフの中で「この人は信頼できる」という人がわかってきますから、そういう人に徐々に任せていくにしても、最初の段階では日本人が見る、というやり方がいいと思います。
(後編につづく)