だれかに話したくなる本の話

結婚より幸せ?仲良し4人組はいかに「家族」になったか 『たぶん私たち一生最強』小林早代子さんインタビュー(1)

どんなに好きな人と結婚できても、恋愛感情は一生続かない。恋愛感情を失った夫婦は破綻するかもしれないし、さもなければ「友達」に近づいていく。それならば、結婚よりも、気心のしれた友達と「家族」になってしまえばいいのではないか。

『たぶん私たち一生最強』(新潮社刊)は、こんな一見突飛な思いつきから、4人の女性たちが「家族」として暮らしていくことを決める。学生時代からの仲良し4人組。一緒に暮らせば絶対楽しい。しかし、果たしてそれはバラ色の日々なのか?気心しれた友達と「家族」になることは、「幸せを自らつかみにいくこと」なのか、それとも「結婚」や「出産」といった女性としての幸せを「早々に放棄すること」なのか?

結婚や出産、家族といった人生の大トピックについての価値観を揺らすこの作品がどのように構想され、書き上げられていったのか。作者の小林早代子さんにお話をうかがった。

■一番仲のいい友達には意外と悩みを話せない

――『たぶん私たち一生最強』は一生をどう過ごすか、家族とは一体何なのか、など多くの問いを与えてくれます。作中では「家族になる」と決めた20代女性4人の共同生活が描かれていますが、ここがアイデアの出発点だったのでしょうか?

小林:そうですね。もともと「友達同士が一つ屋根の下で暮らす」ということにロマンを感じていたんです。『ハリーポッター』やアメリカのドラマの『フレンズ』など、様々なシチュエーションはあるにせよ「同じところで暮らす」という設定が好きでした。フェチだったんですよね。

――それは男女の同棲も含めてですか?

小林:同棲はありふれすぎていてあまりキュンとしないです。友達同士がいいんですよ。私自身もこの本を書いている途中に友達と二年間ルームシェアをしていたのですが、その経験は細部に生きていると思います。

――花乃子、百合子、澪、亜希の4人のキャラクターに説得力がありました。個性的過ぎないと言いますか、いかにもいそうな4人ですよね。

小林:家族になったからといって100%ハッピーというわけではなく、それぞれに悩みを抱えているのですが、その悩みもそんなに突飛ではなくて、「あるある」なものにしています。

そもそも、単行本では1話目に収録されている「あわよくば一生最強」という短編を書いた時点では、あまり4人に個性を付与していなかったんです。というのも、実は私にも仲良しの友達4人グループがいるのですが、長いことつるんでいるとだんだん話すことや価値観が似てくるんですよ。均質化して誰が何を言っていたかわからなくなることもあって。そういう感覚を持っていたのでこの短編は「個性的な4人の集まり」というよりは「一緒にいすぎて価値観が似てきた4人」のお話として書きました。

その後の短編では一人一人にフォーカスした物語を書いているのですが、それぞれが違った悩みや問題に直面している姿を描くことで、結果的に個性も際立った四人になったかなと思います。

――4人の内面の描写がリアルでした。仕事に満足感を持てない亜希が、出産することで「次のステージ」に行けるんじゃないかと考えたり。

小林:私も会社勤めをしていた時、仕事では「イケてない側」だったので、亜希には共感できる部分があります。

――共同生活は「幸せを掴みにいくこと」なのか、それとも「結婚や出産といった幸せを先回りしてすべて諦めること」なのか、提案した花乃子自身がわからなくなる、というのもおもしろかったです。

小林:花乃子は長く付き合っていた恋人がいて、4人の中では一番結婚に近かったんです。だから、「まだ元の道に戻れる」という想いもあるはずですし、澪の姪っ子とのふれあいを通して、「自分にもこういう子どもがいる未来がありえたのでは?」と葛藤します。

そもそも、4人とも男の人に絶望したから女4人でつるんでいるわけじゃなくて、4人とも男が好きなんだけど、でも家族として暮らすなら女友達の方がいい、ということで共同生活を始めています。それもあって、花乃子のように長く付き合っていた彼氏がいた人の方が迷いは大きくなると思いながら書きました。

――4人の会話のノリが、男性の私からしても愉快でした。これは小林さんご自身の仲良し4人組のノリが反映されていたりするんですか?

小林:それはあるかもしれません。実際、親友たちとしゃべっていると「架空の設定」の話で延々と盛り上がって気づくと2時間経っていたりして、仲はいいけど意外と日常の悩みとか転職みたいなシリアスな話題は出なかったりするんですよね。

――作中の4人もそんなところがありますよね。意外と悩みを打ち明けないという。

小林:そういう悩みは、「それ用の友達」に言う、みたいなところはあります。二番目か三番目に親しい友達の方がそういう深刻な話をすっと言えたりもするので。そういうのは自分の経験が反映されていますね。

――作中でも深刻な話題は同居しているメンバーにしにくいという雰囲気があったり、実際他の友達に相談している場面もあって、「親しさとは何か」と考えさせられました。

小林:そうですね。仲良し4人組だけど、案外それぞれの深いところは知らないのかも、という感覚は私もあります。

(後編につづく)

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この記事のライター

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山田洋介

1983年生まれのライター・編集者。使用言語は英・西・亜。インタビューを多く手掛ける。得意ジャンルは海外文学、中東情勢、郵政史、諜報史、野球、料理、洗濯、トイレ掃除、ゴミ出し。

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