だれかに話したくなる本の話

中小企業経営者が知るべき「人事評価制度・報酬制度」を導入すべき真の理由

社員数30名ほどの中小企業であれば、社長は一人一人の社員の顔を把握し、全員と直接コミュニケーションが取れる。それゆえに、「社員たちのことは自分が一番わかっている。だから人事評価も自分がやればよい」という考えになりやすい。

しかし、明確な評価基準もなく、働きぶりを見ての印象で評価される社員が納得しているかどうかはわからない。結果として社員の不満が溜まり、モチベーションが下がったり、最悪の場合離職してしまったりといったことが起こる。小さな会社でも、いや、小さな会社だからこそ人事評価制度・報酬制度は必要なのだ。

『小さな会社が劇的にかわる すごい人事評価・報酬制度のつくり方』(金村秀一著、産業能率大学出版部刊)は、こんな観点から社員数30名ほどの規模の会社向けの人事評価制度・報酬制度の設計・運用の仕方を示していく。

中小企業で人事評価制度・報酬制度を導入することで組織や社員に何が起こるのか。そしてどのように制度を運用していけばいいのか。著者の金村秀一さんにお話をうかがった。

■中小企業の人事評価制度・報酬制度が機能しない理由

――金村さんはこれまで多くの経営者の方から人事評価制度・報酬制度について相談を受けてきたかと思いますが、人事評価制度・報酬制度を導入する狙いや理由というのは、各社似通っているのでしょうか?それとも会社ごとにまったく異なるものなのでしょうか?

中小企業が人事評価制度・報酬制度を導入する理由には主に3種類あります。1つは純粋に社内に評価基準が存在しないので、基準を設定するために導入しようというもの。2つめは人事評価制度・報酬制度を導入することで業績がアップするであろうという理由で導入しようというものです。

そして3つめが、現在運用している制度が機能していないから変更したいという理由で新しい人事評価制度・報酬制度を導入しようというもの。この3つ目が実は一番多いんです。

――機能していないというのはどういう状態なんですか?

金村:まず、複雑すぎて現場の社員が何をどう努力していいかわからない。そして評価する側の上司や社長もどうすれば評価が上がるかを具体的に説明できないという状態です。たとえば、評価項目30個くらいあったら、評価される側の社員はいちいちそれを意識して仕事することなんてできないでしょう。

――たしかにそうですね。

金村:あとは人事評価制度・報酬制度はあるんですけど、がんばってもがんばらなくても評価は変わらない場合。これだとがんばっている人は不満がたまって転職してしまったりする。こんなことがあると、社長は今の制度が適切なのか深刻に検討するわけです。この「今の人事評価制度・報酬制度が機能していないから新しいものにしたい」というのが全体の6割くらいですね。

――ほかならぬ金村さんの会社がこの本の人事評価制度・報酬制度で生産性が劇的に向上したそうですが、会社や従業員はどのように変わっていったのでしょうか。

金村:この人事評価制度は、会社の業績の良し悪しに関係なく、社員の評価は「A評価」「B評価」「C評価」のいずれかになります。制度としては一番上のS評価と一番下のD評価がありますが、基本はAからCの間に収まります。業績に関係なくプロセスも含めたがんばりが評価される仕組みになっているというのと、何をどうやってどのくらいがんばれば評価されるのかがシンプルに明確になっている。これが、生産性が上がった要因だと考えています。

――導入以後、社員の方のモチベーションが明確に上がったと感じましたか?

金村:モチベーションというよりは「納得感」があったのだと思います。人事評価制度・報酬制度で一番いけないのは「A評価」の働きをした社員に「C評価」がついてしまったり、逆に「C評価」をつけるべき社員に「A評価」がついてしまったりすることです。人事評価制度・報酬制度がない会社では、往々にして社長が自分の目に映った印象で人事評価を行っていたりするのですが、それだとこういうことが起こりうるわけです。

すると、本来「A評価」を受けるべきなのに「C評価」だった社員は会社に不満を持つでしょうし、「C評価」なのに「A評価」がついた社員は、「これでいいのか」ということでがんばらなくなってしまう。これは会社にとって良くないですよね。

今回の本で書いた人事評価制度・報酬制度は、上司が部下と毎月15分面談をすると自動的に評価が決まる仕組みになっています。評価は年間の得点に基づいて決まるのですが、毎月面談をしているので、社員自身の自己評価と実際の評価にズレが出にくい。たとえC評価だったとしても、月ごとに上司と話してフィードバックをもらっているので、本人としても「まあ、この半年はダメだったしな」と納得できるわけです。

――中小企業の人事評価制度・報酬制度の現状について教えていただきたいです。本の中では「人事部がない会社が多い」と指摘されていましたが、そういう会社では人事評価制度・報酬制度も存在しないケースがあるわけですよね。

金村:そうですね。特に社員数30人以下の会社では、人事部がある方が少ないです。この規模の会社では人事評価制度・報酬制度がないのが普通です。2022年度版の「中小企業白書」によると、社員数20人以下の企業で人事評価制度が導入されているのは4割未満でした。

――人事評価制度・報酬制度を導入するのは、会社が大きくなってきたタイミングが多いんですか?

金村:そんなことはありません。会社が小さいうちから導入するケースも多いです。というのも、従業員が20人、30人くらいの時に適切な人事評価制度・報酬制度がないと、よほどいいビジネスモデルを持っていない限り、それ以上の規模に成長できません。がんばってもがんばらなくても社長の印象で評価が決まったり、社内に明確な評価基準がないとなると、どうしても社員ががんばるモチベーションは薄れてしまいます。

また、これからは人事評価制度・報酬制度がないと中小企業はどんどん採用が厳しくなっていくと思います。どんな企業であっても、人が集まらなかったら事業を縮小せざるをえません。先ほど、社員20名以下の企業では人事評価制度がない方が多いというお話をしましたが、「ないことがあたりまえ」だからこそ、求職者は人事評価制度・報酬制度がある中小企業があったらそちらを選びやすいので。

(後編につづく)

小さな会社が劇的にかわる すごい人事評価・報酬制度のつくり方

小さな会社が劇的にかわる すごい人事評価・報酬制度のつくり方

小さな会社で人事評価制度が失敗に終わる理由の第1位。それは制度が「複雑すぎる」こと。
専門家が作った人事評価制度は複雑で、小さな会社では社員はもちろん導入を決定した社長までも、何をどうすれば評価されるかが曖昧でわかりづらい。

この本で紹介する方法は、A3用紙の人事評価シート、たった1枚で完結するシンプルでわかりやすいもの。そのため、社員はどうすれば給料が上がるのか、賞与が増えるのか、昇進できるのかきっちりとわかり、それに向かって努力できる。

※記事で取り上げている書籍を購入すると、売上の一部が新刊JPに還元されることがあります。

この記事のライター

新刊JP編集部

新刊JP編集部

新刊JP編集部
Twitter : @sinkanjp
Facebook : sinkanjp

このライターの他の記事