だれかに話したくなる本の話

眼科医が「近視は万病のもと」と考える理由

「近視」は私たちにとって身近な問題だ。
日本人の半分ほどは近視だと言われており、眼鏡やコンタクトをつけて学校や仕事に行くことに、多くの人は抵抗を持っていないはずだ。

ただ、「近視はれっきとした病気」というのが世界的な潮流になりつつある。NASAとの共同研究を指揮し、近視撲滅を目指すクボタグラスの発明者であり、日米で30年以上眼科研究を続ける眼科医、窪田良さんは著書『近視は病気です』(東洋経済新報社刊)で、近視が将来的にさまざまな眼病のリスクを高める点を指摘する。

「近視は病気」だとしたら、私たちは自分や我が子のために何ができるのか?窪田さんにお話をうかがった。

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■眼科医が警鐘!近視を甘く見るべきではない理由

――『近視は病気です』は軽視されがちな近視について注意喚起をする一冊です。本書で指摘されているように、世界的に近視になる人は増えていて、特に若年層で近視が広がっているにもかかわらず、日本ではあまり重く受け止められていません。

窪田:近視は予防や治療が可能な病気なんです。近視になることで、網膜剥離や緑内障、白内障といった病気になるリスクが上がるということがあまり知られていないんですよね。

――確かにそうです。「近視になったら眼鏡かコンタクトをつければいい」というくらいの受け止められ方ですよね。

窪田:本でも書いていますが、「近視は万病のもと」です。高血圧や高脂血症などの脂質異常は特に痛くもかゆくもないのですが、そのままにしておくと脳梗塞や心筋梗塞といった病気になりやすくなります。近視もそれと同じなんです。

――近視に対してのこうした考え方は日本特有のものなのでしょうか?

窪田:台湾、中国、シンガポールといった国々は近視に対して問題意識を強く持っています。これらの国は、「近視は病気」という認識を持っていると言えます。あとはオーストラリアやアメリカもそうですね。

――これらの国は、たとえば「子どもの視力が落ちて近視になった」という時、親はどんなことをするのでしょうか?

窪田:今ある治療法で一番有名なアトロピンの点眼薬やオルソケラトロジーを使った治療を受けさせるでしょうね。

ただ、これらの薬は台湾や中国、シンガポールでは認可されているのですが、日本ではまだ認可されていません。先ほどこれらの国では近視への問題意識が強いというお話をしましたが、逆にいえばこうした治療薬が出てきたことで近視が「病気」として認識されるようになったとも言えます。日本でも今後治療薬や治療法が出てきたら、近視への認識も変わっていくのではないかと思いますね。

――本書を通じて伝えたいことはどんなことですか?

窪田:2050年には世界人口の50%が近視になると言われていて、WHOも警鐘を鳴らしています。特に近視になる人が多い東アジアを見ると、台湾や中国では近視を撲滅するための政府の取り組みが始まっているのに、日本ではそういった取り組みが活発ではありません。こういったことをみなさんに知っていただきたいです。

たとえば、台湾や中国、シンガポールでは、近視の予防の一環として小学生に対して2時間外にいる時間を作るように呼び掛けています。日本で同じことができるかどうかは別として、政府が検討するくらいにはなってほしいです。

また、近視についての世界的な認識を知ることで、これらの国でやっているような対策を、子育てをする親が自助努力として行うこともできるわけです。昔から「暗いところで本を読んだら目が悪くなる」とか「近くでテレビを見たら目に悪い」といったことがある種の経験則として言われていましたが、「屋外で子どもに遠くを見させる」というのは科学的根拠のある近視対策だと今ではわかっているので。

――近視はほとんどが大人になる前になるということで、子どもへの働きかけが重要ということですね。

窪田:そうです。赤ちゃんが成長していくにしたがって、眼球も大きくなっていくのですが、その過程に狂いが生じることで近視になってしまう。一応、30代くらいまではここまでお話したようなはたらきかけに近視予防効果があるだろうとされています。

――近視ではなく遠視になる子どももいますが、これは何が原因なのでしょうか?

窪田:正視になるには、体の成長過程で角膜と水晶体と網膜の距離がちょうどいい比率で成長していくことが必要で、どれがずれても目のピントが合わなくなってしまいます。近視の場合は、眼軸が伸びすぎて眼球が奥に向かって縦長になってしまった状態なのですが、遠視は逆に眼軸が成長できない状態だといえます。

遠視になる原因については今もまだはっきりとはわかっていません。ただ遠視は近視のように最近になって増えているわけではないので、生活環境の変化が原因ではないのは確かです。

――私には年子の弟がいるのですが、弟の方は強い近視で、私はかなり視力がいいです。同じような境遇で育ったのに、近視になる人とならない人がいる理由についてお考えをお聞かせいただければと思います。

窪田:近視になるのは環境要因が大きいことはわかっているのですが、近視の原因となる遺伝子が400種類以上あると考えられているということからいっても、遺伝的な影響を受ける病気でもあります。

「太りやすい遺伝子」があるように、同じような環境にいても遺伝子的な理由で近視になりやすい人となりにくい人がいるんです。兄弟であっても遺伝的な形質が違うと、近視になる人とならない人が出てしまうと言われています。

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近視は病気です

近視は病気です

「視力1・0未満の子どもの割合が過去最高に」――。2023年秋、ショッキングなニュースが報じられました。文科省による調査の結果、裸眼視力が1・0に満たない子どもの割合が小学生で約38%、中学生で約61%、高校生では約71%となったというのです。

実は、WHOは2050年には世界人口の約半分が近視になると予測し、警鐘を鳴らしています。そして今、「近視は治療が必要な『病気』である」という認識が、世界的に高まってきています。

もし、あなたが「近視はメガネをかければいいので気にしなくていい」と思っているとしたら、それは間違いです。近視は、将来的に失明につながりかねない病気を引き起こすリスクを増やすことがわかっています。一方で、毎日数時間、外で遠くを見ているだけで近視が予防できるといったことも明らかになってきています。

日本では目薬や、目のサプリがたくさん売られている一方で、「視力が回復するメソッド」といった怪しげな話も出回っています。目に関するリテラシーを上げることが、今まさに必要です。本書では、眼科医であり研究者である著者が、目について「役立つ」「世界基準の」情報をお伝えします。

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