DXで直面する管理職の苦悩に解決法を授ける一冊
DX推進が叫ばれ、デジタル人材の確保を迫られている企業。デジタル人材は外部から採用するのも選択肢だが、今いる従業員をリスキリングするのも選択肢である。
『リスキリングが最強チームをつくる 組織をアップデートし続けるDX人材育成のすべて』(柿内秀賢著・ディスカヴァー・トゥエンティワン刊)は、「DXに対応できる組織作りは現場のリーダーが重要」だと説き、変化の激しい時代に合わせて自律的に自らをアップデートできる組織作りの方法を明かしている。
なぜDXでは現場のリーダーが重要なのか。そしてリーダーはどんな風にふるまえばいいのか。著者のパーソルイノベーション株式会社 Reskilling Camp 代表 柿内秀賢さんにお話をうかがった。今回はその後編だ。
■DXが叫ばれる現代で管理職が感じる「孤独」
――組織のリスキリングの課題として本書の中の「Ⅹ社」の物語で、部署間の足並みがそろわないことなどを挙げていました。となるとリスキリングには現場のリーダーだけでなく経営陣の役割は大きいと思いますが、DXなどゴールを定めた組織変革へのリスキリングにおいて経営陣には何が求められるのでしょうか?
柿内:組織の中の利害を調整する時に、DXならDXのための権限者を設けて、予算をつけているかはすごく重要です。
もう一つは経営者自身が各部署にきちんと要求することですね。DX推進でIT系の部署の負荷が上がる。人が足りないから採用したい。でも人事はそこに協力する気がなくてエンジニア採用がうまくいかないままほったらかしにしてある。という状態があるなら、経営者は管理部門の責任者に「自分の庭を守ろうとするんじゃなくて、組織として決めた方向に進むようにやってくれ」と直接言うべきです。
――今回の本でいう「リスキリング」は基本的にはOJTで行うべきだとお考えですか?
柿内:OJTも重要ですが、外部の会社の研修を利用するのも重要です。というのも、以前さまざまな企業を対象にリスキリングについての調査を行ったことがあるのですが、OJTはリスキリングの成果が出ているかどうかの差が出やすかったんです。逆に、外部に発注している会社は、リスキリングの成果にあまり差がありませんでした。
ただ、外部の研修も、研修を受けて現場に戻った時に、自分の業務が研修内容に合ってないとなると「勉強しても意味ないじゃん」となりやすいんですよね。これが一番良くない。リスキリングは実務とつながないと意味がないためです。
――今のお話にあったように、組織がリスキリングを推進するためには「学習」と「実務」の接続は重要です。この接続のアイデアがありましたら教えていただければと思います。
柿内:一番シンプルなのは、現場で「これがあった方がいいよね」と思えることを一つテーマに挙げて、それをとにかくやってみることです。そのテーマに沿って「何を学ぶか」を決めていけばいい。
この本の中で、生成AIを営業活動に活用する事例があるのですが、これってそんなに大したことではなくて、「生成AIをどうにか営業に使えないか」っていうことをあれこれ試していっただけなんですよ。
それをやろうとすると、既存の業務プロセスを分解しないといけないと気づくはずで、その結果「お客さんのヒアリングに使ってみよう」とか「提案書を作るのに試してみよう」とか「見込み客探しに使ってみよう」とか模索しているうちに、業務プロセスのどこで使うかが決まり、そうするとどんな使い方をして、そのために何を勉強しなければいけないのか、というのが自ずと定まってくる。
そこが決まったらYouTubeで「生成AIの使い方Tips集」をひたすら見る、などでいいので使い方を勉強して、業務に反映させて、最終的に「ヒアリングから提案書までのリードタイムが短くなった」とか、何らかの成果が出ればいいわけです。
小さなことでいいので、現場のリーダーが「こんなことができたらいいよね」っていうビジョンを持って、「俺の言うことを聞け」ではなくみんなの知恵や意見を集めて試行錯誤を繰り返してっていう運営ができれば、業務にデジタル技術を入れ込むことが、そのチームにとって「自分事」になります。これが、DXでリスキリングを実務と接続する一番シンプルな方法だと考えています。
――本書はDX推進を念頭にリーダー層に向けて書かれたと思いますが、本書の内容を実践しやすくするためにどんな工夫をされましたか?
柿内:この本を書くにあたって、リーダーの方々に思いを馳せた時に、まず浮かんだのは彼らの「孤独」だったんです。業種や部署や会社が置かれている状況によってデジタルの活用方法は異なるのに、一様にDXと言われてもどうすればいいのかわからないっていうのがリーダーたちの本音としてあるはずで、かといって誰かに相談できるわけでもない。
そんな状況で会社のトップや政府は「DX推進」とか「デジタルを活用した新規事業を」と言ってくる。その対応が日常業務にプラスしてのしかかってくるわけです。それは孤独だろうなと。その孤独に対して「自分にも当てはまるな」と親近感を持ってもらえるように、事例をたくさん用いました。
そして、その事例の中では、メンバーや登場人物の心の動きを丁寧に書くように心がけています。というのも、業種や職種が違っても「デジタルに反発するベテランがいる」とか「意識の高い若手がいる」など共通点はあるはずですし、心の機微はそんなに変わらないはずなので。
――最後に、読者となる方々にメッセージをお願いいたします。
柿内:新しいデジタル技術がどんどん出てきて、社会も組織も従業員も変わっていく中で、リーダーは成功イメージを自分の過去の経験の延長線上に描きにくくなっています。ではどう描くかと考えても、千差万別すぎてなかなか参考にするものも見つからない。そんな孤独を感じている人にこの本が届けばいいと思っています。
これからのご自身のリーダーとしての歩み方についてイメージが膨らんだり、孤独が和らいだりすればうれしいですね。
(了)